でも、その頃とは、若者の温度感が変わってきていて、今回の映画『君の膵臓をたべたい』は、人との距離の取り方っていう内向きなエネルギーがテーマなんです。今どきの子は、人とぶつかることを避けがちになっている。でも、めんどくさいかもしれないけど、それを受け入れ、人と関わることで、生きているって実感ができる。それが主題です。そういう意味で、今の時代の気分とうまく端子がつなげられるのではと思って、設計図を書きました。

 結局、現代の日本は人間関係もそうですが、情報主義の社会になっていると思うんです。スマホという窓があれば、何でも知ることができる。若者の“悟り”も情報社会の産物。

 昔は体験主義的な時代で就活も恋も結婚もやってみて初めてこんなに大変だったのかって気が付く。今は最初に、こんなに大変なんだっていう情報が事細かに入ってくる。それじゃあ、始める前から疲れちゃう。

 体験主義だと、ちょびっと後悔はするけど、でも、走っていれば、景色が変わっていく。誰かに、ポンッとぶつかることもあって、それが、運命が変わるような出会いだったりする。走ったからこそたどりつける場所や、出会いがあると思うんです。

 なので、僕は、昨日、今日と明日のことしか考えないんですよ。走りながら見える色々な景色を楽しんでいきたいので。

撮影/弦巻 勝

春名慶 はるな・けい
1969年6月19日、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、93年、博報堂入社。97年に映画セクションに配属される。04年に公開され、社会現象にもなった映画『世界の中心で、愛をさけぶ』を皮切りに、『いま、会いにゆきます』、『県庁の星』、『神様のカルテ』、『僕等がいた』など数々のヒット作をプロデューサーとして手がける。現在はプロデューサー業として活躍しながら、博報堂DYミュージック&ピクチャーズの取締役も務める。

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