流暢な日本語でリー氏は話す。最近、日本で金塊の密輸、強奪事件が相次いでいることについて水を向けると、彼が意味深な表情で頷く。「確かに2~3年前から、かなりの量の金塊が日本に運ばれている印象がありますね。金塊とGPS発信機を一緒に梱包して、香港から九州に運ぶ途中、沖縄近海に捨てる。それを地元の漁師が取りに行きます。金塊の沈んだ場所は、スマホによってリアルタイムで確認できる。なので、取締りの後手に回ることはほぼないですね」(前同)

 日本で報道される金塊の密輸や強奪は、まだまだ氷山の一角だと言う。「チャイニーズマフィアの幹部クラスが関わる話です。大口で金塊が闇取引きされれば、香港でも噂になりますから」(同)

 チャイニーズマフィアの幹部たちは、日本に密輸する金塊を用意し、海に沈めるところまで関わる。そして、密輸することで浮いた消費税の一部を手数料として、日本の組織から受け取っているのである。

 リー氏に話を聞くことができた礼に、再びA氏を訪ねた。この日は他にもう一人、香港で金融関係の仕事に従事しているというB氏を帯同していた。「日本への大口の金塊密輸が、香港で噂になっていることの意味は重要です。そこで問題になるのは、まず、その密輸がいつ行われるのか、そして、どこの組織のシノギなのか」

 神妙な面持ちでB氏が、リー氏の話のポイントを解説する。そして、A氏がさらに説明を加えた。「要するに、金塊密輸がシノギなら、この密輸の情報自体もシノギになっているわけや。億単位の金塊が非合法で運ばれる。それが敵対する組織のシノギと分かれば、アウトローなら当然、“叩いたろ”と思うやろ」

 “叩く”は、強盗や強奪を意味する裏社会の隠語だ。冒頭に触れた通り、ここ最近、九州、大阪と金塊絡みの“叩き”が頻発している。A氏の言う「密輸の情報自体もシノギになっている」の意味は、すなわち「金塊密輸の情報が、香港のブラックマーケットで売買されている」ということだ。

「金塊を密輸して浮かせた消費税8%の分け前より、強奪した億単位の金塊から山分けしてもらうほうが、チャイニーズマフィアも割がいい。だから奴らも必死に情報を探るし、日本の裏社会の事情にも、驚くほど精通していますよ」(B氏)

 魑魅魍魎が跋扈する金塊密輸ビジネスの闇――その深淵は、あまりに深い。

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