今年4月以降、強化委員会は五輪やWBCの指揮を執った歴代監督に、「どんな人物が次期監督にふさわしいか」というヒアリングを行った結果、井原委員長は、「プロ野球の監督経験があったほうがいいという一方で、世代交代も必要」という見解を示していた。

 前述のように、「経験者」にことごとく断られたこともあって、もう一つの条件である「世代交代」の方向に大きく舵を切ることとなったようだ。「13年WBCの山本浩二監督のとき、コーチ陣が皆、監督と同じ世代で、選手とうまく噛み合わなかったという反省からでしょうね」(前出のスポーツ紙記者)

 そこで白羽の矢が立ったのが、小久保裕紀監督の下で打撃コーチを務めた稲葉篤紀氏だった。彼は、選手として08年の北京五輪、09年と13年のWBCに出場。この国際試合の経験を買われ、13年秋からは侍JAPAN打撃コーチとして、小久保監督を支えてきた。

「とにかく、選手からの人望が厚いんです。打撃に関する指導力にも定評があり、代表では中田翔や坂本勇人らに的確なアドバイスを送り、彼らは稲葉理論の信奉者になりました」(前同)

 最近では、巨人から日ハムに移籍した大田泰示に、「打撃が小さくなっている。お前の持ち味は、もっと思い切って振ることのはずだ」とアドバイス。大田の眠っていた実力を覚醒させるきっかけを作ったことで評価を高めた。代表監督就任は、日の丸選手たちから歓迎されるだろう。

 だが、野球は人柄だけでは勝てない。プロ野球で監督経験のない人物に、代表監督の座を委ねるのは、ある意味では冒険のような気もするが、06年WBCの優勝メンバーの一人、里崎智也氏は言う。「経験があるからいいとか、ないからダメとか、そんなことは関係ありません。あくまで結果で判断されるべきでしょう」 その評価は、彼の采配を見るまで楽しみに待つことにしよう。

 しかし、ここまで監督選びが難航する、そもそもの原因は何なのだろうか。「サッカーのマネをして代表を常設にしたのが間違いの始まり。そのしがらみがなければ、監督のなり手は、いくらだっていたはずです。正直、ビッグネームでなければ、メジャー組も召集に応じないでしょう。結局、常設化したところで、WBC以外の国際試合は盛り上がらない。今秋にあるアジアチャンピオンシップなんて、誰も知らないでしょ!? これじゃ、日本代表の強化にもつながらない。このままでは、侍JAPANはダメになっちゃうと思いますよ」(前出のベテラン記者)

 日の丸を背負い、母国開催の五輪で金メダルを目指す侍JAPAN。その舵取りが注目される。

本日の新着記事を読む

  1. 1
  2. 2
  3. 3