長谷井宏紀(映画監督)「人と何かを共有できるってとても豊かなこと」ストリートに入り込む人間力の画像
長谷井宏紀(映画監督)「人と何かを共有できるってとても豊かなこと」ストリートに入り込む人間力の画像

 今回の映画『ブランカとギター弾き』は、キャスティングが一番大変だった。2か月、フィリピンのストリートを歩いて探したんですよ。リアルに拘りたいということもあったし、何より、本当にそこに住んでいる人たちと一緒に何かを表現するっていうのが、すごく楽しいから。

 ストリートで色々な人に声をかけてキャスティングしたんですが、みんな電話を持っていなかったりして、プロダクションの人に、“あの場所にいたこの写真の人を連れてきてくれ”ってお願いしても、“ムリだよ”って。結局、“とりあえず、現場にカメラを置こう。そうすれば、人が集まるから”って言われて、そこからキャスティングしていったんですよ。

 メインどころを演じてもらった盲目のギター弾き・ピーターは、別の短編作品の撮影のときに、教会の地下道で出会った。缶を置いて、ギターを弾いていた。傍には、お金の監視役をする小さな子どもがいて。彼をみて、この人で映画を撮りたいって思ったんです。言ってしまえば、今回の映画は彼のあて書きですね。

 ピーターは、すごいんですよ。今回、映画に出てもらうわけですから、それなりのギャラを渡したはずなのに、撮影最終日に5000円しか持ってない。“なんで?”ってのけ反りましたよ。聞くと、みんなに配っていたんです。ピーター自身、ストリートでギターを弾いてお金稼いでいるわけだから、決して裕福じゃない。それなのに、お金に困っている人とか、親戚とかにほとんど渡しちゃったみたい。本当、格好いい。

 彼は、映画の撮影が終わった3か月後に亡くなってしまったんですが、本当に、いろんなものを分かち合って死んでいったんだなって。

 フィリピンに限らずですが、とてもヘビーな状況で生きている人ってたくさんいる。彼らは何も持っていないから、生活は厳しい。でも、人をすごく大事にするんですよ。何もないから、生きていくために、頼れるとしたら人じゃないですか。人とのつながりを、すごく大事にしていて、そういうのがいいなって。

 僕は、人のあったかさっていうのがとても重要だと思うんですよ。やっぱり、孤独ってつらいじゃん。でも、人と何かを共有できるってとても豊かなことでしょう。

 そういうストリートにある物にアプローチしていきたい。見る必要がない物って、みんな見ないじゃないですか。ゴミ山で生活をしているようなストリートチルドレンとかって、自分たちの生活にはどうでもいいことだと思っている。どうだっていいけど、本当はどうでもよくないことを表現していきたい。

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