僕がデビューした頃は、宝塚記念が終わると、中京、福島の4週開催を挟んで、小倉、新潟の8週開催に突入。大きなバッグに鞍や着替えをいっぱいに詰め込んで、高速道路をぶっ飛ばして九州に入り、ひと夏をずっと小倉で過ごすというのが当たり前でした。

 ところが最近は、レーシングプログラムの改編により、ローカル開催がすべて6週に統一されたことで、一つの競馬場に腰を落ち着けて乗ることがなくなり、夏が慌ただしく過ぎていくような気がしています。理想は夏の2か月のベースを小倉に置き、日本全国を飛び回るというスタイルです。ただ、こればかりはJRAの判断次第で……。これまでにも何度か声をあげているのですが、残念ながら今のところ、僕の声はJRAには届いていないようです。

 武豊と夏といえば、もう一つ。忘れちゃいけないのが、フランス競馬です。中京、小倉、函館、新潟……今年も日本全国を飛び回り、それぞれの競馬場を楽しみましたが、フランスにはフランスの良さがあり、日本では見ることのできない風景があります。たとえばコースから見えるスタンドの風景も、その一つです。

 パドックに足を運び、穴があくほど馬柱を見つめ、マークシートに記入して、券売機の列に並び、コブシを握りしめながらゴール前でレースを観戦。終わったら、すぐにパドックに移動して、次のレースの検討に入る――これがジャパニーズスタイルです。

 一方、フランスでは、競馬をレジャーとして捉えている人が多いので、スタンドの横に設置されたテーブルを家族で囲み、食事をしながら、ゆったりとレースを楽しむというのが特徴です。中でもドーヴィル競馬場など、避暑地の競馬場でこの傾向が強く見られます。

 そうそう。そういえば、こんなこともありました。セーヌ川に沿うように隣接したメゾンラフィット競馬場でのことです。返し馬の途中、スタンドを見上げると、やたら、キャンバスを抱えたお客さんが目について。“なんやろう?”と思って聞いてみると、ファンサービスの一環として、「写生大会」を開いていると言うのです。

――ええーっ!? 競馬場で写生大会? こうなると、どんな絵を描いているのか見たくなるのが人情です。

 ということで、スタンドまで足を運び、さりげなく覗いてみると――迫力満点のゴールシーンを描く人。コースの全景を描く人。なぜか、花瓶を描いている人までいて(笑)。しかも、そんな彼らもまた競馬ファンですから、レースが始まると大きな声で、お気に入りの馬やジョッキーを応援し、レースが終わると、また、キャンバスに向かって黙々と筆を走らせるのです。

 馬とのふれあいコーナーや乗馬体験など、JRAもファンサービスが充実していますが、たまには趣向を凝らして、こんな写生大会というのも、面白いかもしれないですね。

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