■巨人の横やりが入っても、久保田智之は裏切らなかった

 阪神で20年間、スカウトをしていた北村照文氏は、思わぬ横やりに苦戦したという。「02年に獲得して、その後JFKのKとして活躍した久保田智之ですね。彼がいた常磐大に行った際に、監督から“久保田は獲るって言えばなびきますよ”と言われて。人見知りで最初は言葉が返ってこなかったけど、だんだんと親しみを持ってもらえるようになった。ところが、巨人がやってきて、うちの倍の金額を出すって言ってきたんです。うちは自由獲得枠が決まっていたので、5巡目で獲ることを了承してもらったんです。彼は下の順位でも、僕を裏切らないでくれた」

●担当スカウトと選手のプロ入り後も続く絆

 プロ入り前に築き上げた信頼関係は、その後も続いていく。鈴木氏は、伊良部との交流を振り返る。「伊良部が全盛期のときに、球場に行ったんですよ。試合前に伊良部が僕を見つけて、“珍しいですね。すぐ帰るんでしょ”って言うから、“お前が降板するまでいるよ”と答えたら、“じゃあ最後までですね”って。それで、本当に最後まで投げたのを覚えています」

 北村氏も久保田について、こう話す。「僕が昨年ユニフォームを脱ぐ際に球団に言ったんです。久保田が打撃投手だったから、“打撃投手じゃダメ。功労者なんだからポストをあげてくれ”って。それで今年からスカウトになったので、うれしかったし、頑張ってもらいたいですね」

■巨人時代にドラフト外で指名した石毛博史がセーブ王に

 久保田のように下位指名で獲得した選手が活躍するのは、スカウト冥利に尽きるのだろう。「巨人時代に、石毛博史をドラフト外(89年)で指名してね。本当は3位くらいの評価だったんだけど、チーム事情でドラフト外になった。最初は拒否されたんだけど、何度か話し合いをして、納得してもらったんだよね。セーブ王になってくれたときは、うれしかったよ」(城之内氏)

●“最大の成り上がり”と言えば、ソフトバンクのエース千賀滉大

 下位指名からの“最大の成り上がり”と言えば、ソフトバンクのエースである千賀滉大だろう。今年のWBCで大活躍し、メジャーも注目する千賀は高校時代、まったくの無名選手だった。「愛知県の蒲郡高校という弱小校出身なんです。名古屋のスポーツショップの経営者が、“いいピッチャーがいる”とスカウトに紹介したのがきっかけなんです。担当スカウトは千賀を見て、“素材はいいけど、育成でなら”と、10年の育成ドラフト4巡目でプロ入りしたんです。それがまさか、ここまで大化けするとは、誰も思っていなかったでしょうね」(ソフトバンク担当記者)

●日本ハム3位指名の小笠原道大も大化け

 下位指名ではないが、成り上がりで言えば、高校時代に本塁打0の小笠原道大も挙げられる。高校卒業後にNTT東日本に入社。96年のドラフトで、日本ハムに3位で指名された。この小笠原を徹底マークしていたのが城之内氏。「ドラフトの日、俺が選手の名前を書く役だった。それで3位で小笠原の名前を書いていたら、日本ハムの指名順が1つ前で先に獲られてしまった。それでも、あそこまでなるとは思っていなかった。だから彼は日本ハムに入って良かったと思ってるよ」

 今年のドラフトは、どんなドラマが生まれるのか。

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