白石和彌(映画監督)「人間の剥き出しの感情を描いていきたい」反骨の人間力の画像
白石和彌(映画監督)「人間の剥き出しの感情を描いていきたい」反骨の人間力の画像

 今の時代は、便所の隅に書かれた落書きも相手にしなきゃいけない時代なんですよ。昔は、そんなの誰も相手にしなかったのに、今はネットやSNSに書かれて、それに反応してしまっているから、おかしなことになっちゃっている。相手にしなきゃいいのになって思いますよ。

■テレビドラマは規制だらけ

 テレビドラマなんか、もう規制だらけですよ。よく言われるのが、シートベルト。殺人犯も、犯人を追っかける刑事もみんなシートベルトしていますよ。撮影とはいえ、公道をシートベルトなしで走るのはいかがなものかというクレームが来ないように、自主規制している。

●なんのために役者やっているんだろう

 人を殺すのも大変ですよ。自動車メーカーは、テレビ局にとって重要なスポンサーだから、車で人をひき殺すのはダメ。僕は、『凶悪』という映画で、お酒を飲ませて人を殺したんですが、テレビ局にとっては、お酒メーカーだって大事なスポンサーですから、絶対できない。

 事務所側からの規制もあって、“イメージが悪くなるようなシーンはできません”とか言われちゃうと、なんのために、役者やっているんだろうなって悲しくなります。もう、もの作りじゃないですよ。

 もちろん、ドラマの現場の人間は、規制だらけの中で、なんとかドラマの火を消さないように、あれこれ頭絞ってやっていますから、しんどい思いをしていると思います。そもそも企業のPRのためにドラマなんて作れないんですよ。とっとと、アメリカのようにペイパービューが主流になったほうが、良質なドラマは増えると思います。

■リリー・フランキーとピエール瀧は逆にCMが増えた

 別に、映画のなかで薬物をやろうが、その役者のイメージが傷つくなんてことないと思いますよ。さっき話した『凶悪』で、リリー・フランキーさんとピエール瀧さんに、酒を飲ませて人を殺す役をやってもらったんですが、2人ともCM増えましたからね。瀧さんなんか、角ハイボールのCMやっていますからね。表現は、卑猥だったり、倫理観から外れていたりするからおもしろいのであって、それができなくなるなら、もういっそ全部やめてしまえと。そうなれば、僕は映画監督やめて、蕎麦屋のオッサンになりますよ。

 まあ、今のところは、そういう社会の風潮に対して、なにくそと思って、やっていますけどね。

■反骨心は師匠・若松孝二監督の影響が大きい

 こういう世の中に対する反骨心っていうのは、師匠・若松孝二監督の影響が大きいかもしれませんね。若松さんからは、映画の細かい演出というより、男としての生き様というか、そういう姿勢を学びました。師匠と弟子という関係でしたが、どこかで父と子みたいな感じでした。理不尽な人でしたけどね(笑)。軽トラにカメラ乗っけて、自転車を追っかけるとき、僕が運転をしたんですが、カメラの助手さんが録画押すのを忘れていたんですよ。そしたら、若松さんは“白石! お前の運転が悪いからカメラ回ってねーんだよ”って怒鳴られたり(笑)。

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