■「老後設計の基本公式」に当てはめて計算

 2つの常識破りを取り入れたうえで、先に触れた公式を利用してみよう。国税庁の「民間給与実態統計調査」(2015年)を基にした60代男性の給与所得額は約372万円。60歳から69歳まで、その平均からやや少なく見積もり、年間350万円稼いだと仮定し、公式に当てはめる。ここで問題となるのは、「A」の保有資産額(貯蓄額)だが、ここに、500万円を当てはめよう。そこから、本来なら65歳からもらえる年金(p=200万円)に支給までの年数(a=5年)を掛け合わせた数字(p×a=1000万円)を差し引くと、500万円の赤字となる。しかし、前述した通り、退職後も69歳まで毎年350万円ずつ稼ぐと、(W=350万円)×(b=10年)で計3500万円(w×b)が弾き出される。

 次の問題は、「H」(最晩年までに残したい資産額)を、いくらに設定するか。一般に必要とされる額は1500万円。内訳は、老人ホームへの入居一時金(1000万円)といざというときの備えなどの合計(500万円)。それだけあれば安心だが、老人ホームも、公的施設に入れば一時金はかからないので、その分を削り、500万円で計算してみよう。次に難しいのは、分母となる「n」(想定余命年数)の設定だ。「日本人男性の平均寿命は約81歳ですが、そこには幼児で亡くなるなどのケースも含まれています。60歳以上に限ると、余命年数はもう少し高くなるはず。なので、90歳から95歳と想定してみましょう」(同)

 ここではnを90と仮定して計算すると、「d」の「年間取り崩し額のメド」は約83万円。それに70歳から想定余命の90歳まで受給できる年金額(p)の284万円をプラスして「年間生活費のメド」(y)は367万円。これを1か月当たりにすると、30万5000円となる。生命保険文化センターが想定した36万6000円には及ばないが、この金額があれば、介護が必要になった場合の老人ホームの月額利用料などを含めても、夫婦2人なら暮らせそうだ。

●海外旅行など、趣味や娯楽も楽しめる

 事実、『「老後貧乏」はイヤ!』(日本経済新聞社)などの著者で家計再生コンサルタントの横山光昭氏は、生活費の目安について「家賃や住宅ローンを除いて、夫婦2人で月に22万円前後で生活している方は多くいらっしゃいますし、この生活費でもカツカツ感はないようです」と話すように、仮に生活費を22万円とすれば、先の公式で得られた生活費(月30万5000円)との差額(8万5000円)を貯蓄に回し、海外旅行や自宅のリフォーム代などに使うことができる。趣味や娯楽を楽しめる豊かな老後を謳歌できると言っていいはずだ。

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