
仮面夫婦とは、実質的な夫婦関係がないのに円満な夫婦を演じている夫婦のこと。メディアなどでは、夫婦がそろって仮面をかぶるケースばかりがクローズアップされてきたが、実際はパートナーでさえ気づかぬうちに、夫婦のどちらか一方が仮面を被っていることのほうが多いという。仮面夫婦の未来には一体何が待ち受けているのか。仮面夫婦の傾向と対策を検証する。
■うちは大丈夫? 仮面夫婦チェックリスト
夫婦間で申し合わせて仮面夫婦になるケースはごく稀。ほとんどは、無意識もしくはノーチョイスで仮面夫婦になっている。まずは、自分たちが仮面夫婦になる可能性がどれくらいあるのか、危険度をチェックしておこう。
●仮面夫婦 危険度診断
- (1)一緒に食事をするのは1日1回以下
- (2)会話は必要最低限で事務的なことしか話さない
- (3)メールやLINEでは常に敬語を使う
- (4)自室などひとりで過ごす場所を確保している
- (5)スキンシップが一切ない
- (6)離婚後の生活を想像することがたびたびある
- (7)愛情ではなく打算で結婚生活を続けている
- (8)夫または妻に関心がない
- (9)対外的に良好な夫婦仲を装うことがある
- (10)浮気をしている
●テスト結果
・0~2つが当てはまる:危険度 20%
自他共に夫婦円満だと認めるレベル。現状では仮面夫婦になる可能性はほぼなし
・3~5つが当てはまる:危険度 50%
いわば仮面夫婦予備軍。何かをきっかけに仮面夫婦となる可能性を秘めている
・6~8つが当てはまる:危険度 70%
すでに仮面夫婦である可能性大。自覚がない場合は夫婦で一度話し合いをするべき
・9つ以上が当てはまる:危険度 90%
仮面夫婦の達人ともいうべきレベル。いつ離婚してもおかしくないのでは?
危険度50%以下でも安心は禁物。(1)~(5)に2つ以上当てはまる場合は、相手が仮面を被っている可能性があるので、パートナーに兆候がないか思い返してほしい。
仮面夫婦だと自覚していない夫婦も多いため、日本にどれくらいの数の仮面夫婦が存在しているか明らかになっていないが、専門家のあいだでは「3組に1組以上」だともいわれている。自身が仮面夫婦ではないか、その兆候がないか、改めて思い返したほうがいいだろう。
■幸せか?不幸せか? 仮面夫婦の行く末
厚生労働省の「平成28年度 人口動態統計」によると調査年の離婚率(年間離婚届出件数÷日本の人口×1000)は1.73で、ここ20年の内でもっとも低い結果となった。その一方で、同居期間が20年を超える熟年夫婦の離婚率は増加傾向にあり、子どもの独立や夫婦いずれかの退職をきっかけに離婚を選択するケースが多いという。“離婚率の低下”と“熟年離婚の増加”。このどちらにも背景には仮面夫婦の存在があるようだ。
たとえ夫婦関係が冷め切っていても婚姻関係を続けている理由を探ると、一概に「仮面夫婦=不幸せ」とはいえない面が見えてきた。
●仮面夫婦でも離婚しない主な理由
・子どものため
・世間体や社会的地位を守るため
・家事や生活費の負担を軽減するため
・離婚手続きや弁護士費用の捻出が面倒なため
・老後の不安を解消するため
・どちらかが離婚に応じない、もしくは仮面夫婦であることに気づいていないため
多少の制限はあっても、利害関係が一致しているのであれば婚姻関係を解消する必要はない。2016年に大ヒットしたテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は契約結婚から恋愛感情が芽生えるストーリーだが、仮面夫婦も契約結婚のようなもの。夫婦間で不要なコミュニケーションを取ることも干渉することもなくなれば、意見の食い違いや不道徳があったとしても揉めたり怒りを感じたりすることなどないし、場合によっては、仮面夫婦のほうが自由気ままな生活が送れるだろう。結婚当初に思い描いた幸せな結婚生活ではないかもしれないが、仮面夫婦だから不幸だと感じている人はそれほど多くないようだ。
●仮面夫婦でいることに耐えられなくなったら
もちろん、仮面夫婦でいることに苦痛や居心地の悪さを感じている人もいる。現状を打破したくてもできないなどの精神的負担を感じたら、以下の方法で解決してほしい。
・仮面夫婦であることを信頼できる友人や親族に相談する
・夫婦問題専門のカウンセラーを訪ねる
・パートナーと話し合う
・心療内科もしくは精神科を受診する
・家庭内別居ではなく別居する
●仮面夫婦は子どもの前でも仮面夫婦であるべき
仮面夫婦でいるほうが心地いいと感じるかどうかは当事者の問題であって、子どもがどう感じているかは別の話。言い争いやDVなどあからさまな夫婦トラブルがなくても、漏れなく両親の不仲は子どもに悪影響を及ぼすと思ったほうがいい。
両親の異様な雰囲気を察知した子どもは、無意識のうちに感情や願望を隠したり、両親の気を引くために不登校や非行を起こしたりする。ときには精神的に追い込まれてリストカットや精神疾患に至るケースも。子どものうつ病や引きこもりは、両親の不仲が引き金になっている場合が多い。
また、仮面夫婦は、家庭での立場を優位にするために子どもを取り込もうとする傾向があり、精神的にも物理的にも溺愛された子どもは、将来ニートになりやすいと言われている。たとえ心身ともに健康で独り立ちできたとしても、仮面夫婦であることが当たり前の環境であれば、子どもの結婚観や父性・母性に影響が出るだろう。
両親の不仲は子どもの人格を左右するだけでなく、心理的外傷となって人生を台なしにすることを忘れてはならない。もし、子どものために離婚ではなく仮面夫婦になることを選択するのであれば、子どもさえも気づかないほど完璧であるべきだ。
●子どもが独立した後の生活
若いうちは離婚するよりも仮面夫婦でいるほうがラクだと感じることもあるが、熟年期以降はバランスを崩してしまうことがある。その大きなきっかけが「子どもの独立」「夫婦の退職」「介護問題」である。果たして、仮面夫婦が2人きりで老後生活を送ることにメリットがあるのだろうか。前述した《仮面夫婦でも離婚しない主な理由》をもとに振り返ってみよう。
・子どものため、世間体や社会的地位を守るために仮面夫婦になった場合
→ 婚姻関係を継続する理由を失う。
・離婚が面倒、老後が不安などの理由で仮面夫婦になった場合
→ 状況は特に変わらないが、介護が必要となったときにトラブルが起きやすい。
・家事や生活費の負担を軽減するために仮面夫婦になった場合
→ ケースバイケース。好転も悪化もあり得る。
・夫婦のいずれかが気づかずに仮面夫婦になった場合
→ 状況が変わらないのであれば話し合いが必要。
互いに歳を重ねて心身ともに弱まっているときに、関心のない相手と助け合って生きていくのは簡単ではないだろう。しかし、熟年離婚に至った場合もそれなりのリスクがあることも忘れてはならない。
《仮面夫婦が熟年離婚する際のメリット》
・配偶者に対するストレスがなくなる
・介護をする/される必要がない
・自由な時間、自由な恋愛を楽しめる
《仮面夫婦が熟年離婚する際のデメリット》
・孤独
・健康上の不安、介護問題
・金銭的なリスク
・衣食住の確保および維持が難しくなる
●仮面夫婦が離婚する場合
協議離婚であれば問題ないが、離婚裁判となった場合は法律で定められた離婚理由が必要となる。
たとえば、性格の不一致や価値観の違いなど、お互いの努力で改善できる理由は離婚事由に該当しないが、一定以上の別居期間があるケースは夫婦関係が破綻しているとみなされることがある。また、仮面夫婦や別居夫婦であっても不貞行為をしたりスキンシップを拒絶したりすると不利になる場合も。
《仮面夫婦でも離婚の際に不利となりやすい事案》
・不貞行為
・精神的もしくは肉体的虐待
・生活費を渡さない
・専業主婦である妻が家事や育児を放棄
・共働き夫婦のいずれかが家事や育児に非協力的
配偶者の問題が認められた際は慰謝料を請求することが可能。また、離婚後の金銭的リスクやトラブルを回避するためにも財産分与が不可欠だが、別居していた場合は対象財産の基準時(離婚時or別居時)がそれぞれの事案に応じて判断される。万が一、財産分与や慰謝料がなくても、配偶者が厚生年金に加入していれば年金分割制度を利用できるということを覚えておいてほしい。
■別居婚はアリ!? 芸能人に学ぶ、夫婦のかたち
最近は、同居せずに結婚生活をスタートさせる“別居婚”や、週末だけ自宅に戻る“週末婚”も珍しくない。特に芸能界では、離婚間近と噂されながら長年不思議な別居生活を続けている夫婦が多い。
●内田裕也・樹木希林
1973年に結婚。その2年後に別居して以来、40年以上も別居生活を続けている。しかし1981年に内田が樹木に黙って離婚届を区役所に提出した際は、樹木が離婚無効の訴訟を起こして勝訴。現在は月1回のペースで連絡を取り合っているという。樹木は2010年に出演した『徹子の部屋』(テレビ朝日系)で、未だに内田のことがよく分からないとしつつも「内田裕也のすべてが好きです」と語っている。
●ビートたけし
1979年、女性漫才師だった内海ミキ(北野幹子)と結婚。一男一女をもうけた後、1983年に正式に入籍しているが、たけし本人はテレビでたびたび「別居して40数年」「40年間家出している」と発言して笑いを誘っている。たけしの度重なる浮気に悩んだ夫人が5代目笑福亭枝鶴と不倫スキャンダルを起こしたこともあるが、たけしの母である北野サキさんの教えを守り、現在も夫婦を続けている。
●稲川淳二
かつておしどり夫婦として妻とテレビCMで共演していたが、すでに25年以上別居しているそう。現在、妻は稲川の所属事務所社長として働いているが、別居後に顔を合わせた回数は冠婚葬祭で10回ほどだという。稲川は雑誌のインタビューで「今でも女房と子どもがどこに住んでいるか分からないが、このまま女房の家がどこにあるのか分からなくていい。これも愛情」と答えている。
●川崎麻世・カイヤ
1990年結婚。一男一女がいる。別居前からテレビで強烈な夫婦喧嘩などを繰り広げていたが、別居後も恐妻家&外国人タレント夫婦としてテレビ番組などで共演を続けている。今の自由な生活を楽しんでいるようで、夫婦ともに異性スキャンダルが多い。最近では互いに「毎日やりとりしている」「別居を解消したい気持ちもあるけど、このままでもいい」と発言することが増えた。
●大地真央
2007年、11歳年下の世界的なインテリアデザイナー、森田恭通氏と結婚。夫は海外出張などで家を空けることが多く、連日舞台に立ち続ける大地とは、なかなか時間が合わないという。現在、夫は大地の生活リズムを尊重して自身のアトリエで寝起きしているというが、夫婦仲は良好でスケジュールが合うときは自宅でともに過ごしたり食事に出かけたりしているそう。
■仮面夫婦を解消するための5つのきっかけ
目も合わせないような仮面夫婦であっても、一度は愛し合った仲。このままではマズいと感じるなら、やり直すきっかけを探ってみてはどうだろう。ここでは仮面夫婦を解消するためのきっかけを紹介する。
●会話する、手紙を書く
話し合いの前に、少しずつ心の距離を縮める作業。まったく会話をしなかった夫婦に突然何事もなかったかのように話すのは難しいが、段階的にコミュニケーションをとって様子をうかがってみてはどうか。思ったような反応がなくても諦めたりせず、気長に続けてほしい。
《ステップ1》
「おはよう」「おやすみ」「ただいま」「おかえり」を言う
《ステップ2》
誕生日やクリスマスなどのイベントにメッセージカードを贈る
《ステップ3》
食べ物や季節のことなど、当たり障りのないことについて短文で質問する
例)「食べる?」「もう桜を見た?」など
《ステップ4》
相手の反応に合せて会話の頻度を増やし、相手の話を聞く
《ステップ5》
素直な想いを手紙で伝える
【ポイント】
常に穏やかな気持ちを保ち、相手を非難するようなことは言わない
●話し合う、カウンセリングを受ける
お互いの気持ちや希望を理解し合う作業。仮面夫婦となった当初とは状況が変わっている可能性もあるので、積極的に相手の意見に耳を傾けよう。言い争いになってしまいそうなときや自分の意見をスムーズに伝えられないときは、カウンセラーや専門家の助けを借りるといい。
●生活リズムを合わせる
夫婦で顔を合わせる時間をつくる作業。お互いが家にいるのかいないのか分からないような環境では、関係改善は難しい。ずっと同じ空間にいなくてもいいが、生活リズムを合わせることで自然と言葉を交わしたり2人で食事をしたりできるようになるかもしれない。
●旅行やレジャーに出かける
仲が良かったころを思い出す作業。日帰りでも1泊でもいいので、以前一緒に行った場所や2人の興味のある場所を訪ねてみては? はじめは苦痛かもしれないが、日常よりもコミュニケーションが取りやすいはず。ぜひ、新鮮な環境で刺激や感動を共有してほしい。
●スキンシップを増やす
夜の生活を取り戻すための作業。相手が嫌がっているのに無理矢理触れたり強要したりすると、ますます関係が悪化する可能性があるので、まずは握手やマッサージからスタートして、徐々に触れ合うことに抵抗がなくなるように努力するべき。時間がかかっても焦らずに。
■仮面夫婦にならないためにできるたった3つのこと
仮面夫婦だと自覚している人に“仮面夫婦になったきっかけ”を聞いてみると、どこの夫婦も経験しているような些細なことだったりする。
《仮面夫婦になった原因》
・夜の生活を断られた
・相談してくれなかった
・寝室を別にした
・価値観が違う
・生活スタイルが合わない
・不貞が発覚した
・家庭内のパワーバランスが崩れた
・感謝されなくなった
・一緒にいるとイライラする
・腹が立つことを言われた
・無視される
・相手の機嫌が悪い、など
不貞行為はともかくその他は決定的な理由がない。何となくムカついた、何となく距離ができたというすれ違いの積み重ねで仮面夫婦になってしまい、当事者ですら、なぜ仮面夫婦になったのか、いつから仮面夫婦になったのかわからないというケースが多い。
逆をいえば、気持ちがすれ違わないように心がければ仮面夫婦にならずに済むということ。難しく考えずに以下の3つを実践してほしい。
(1)積極的に会話する
一方的に話すのではなく、相手の話を聞くことも大切。会話を重ねてお互いの考えを共有すれば、誤解やすれ違いが減るだろう。
(2)互いに感謝する
日々当たり前のようにやってもらっていることにも感謝は必要。言葉だけでなく、態度や行動で感謝を示すとよい。
(3)自分本位にならない
相手の立場になって考える。とてもシンプルで簡単なことだが、夫婦だと甘えが出て忘れがち。いつでも思いやりを持って接したい。
この3つのルールは夫婦というよりも人間同士のつきあいで重要とされることばかり。もし、これすら守れないのであれば、自身が仮面夫婦の因子を持っていると自覚するべきだろう。
■まとめ
仮面夫婦はけっして他人事ではない。どんなに愛し合っている夫婦でも、ちょっとしたボタンのかけ違いから仮面夫婦になる可能性があり、自分たちの周りにはすでに高確率で仮面夫婦が存在しているのだ。仮面を被っているから不幸だと決めつけることはできないが、仮面夫婦でいるためには、それなりの覚悟と人生設計が必要だということを忘れずに、夫婦関係を築いていきたい。