
2017年に発表されたUR都市機構による「一人暮らし男女のご近所づきあいに関するアンケート調査」によると、一人暮らしをする20~30代の63.5%が「近所づきあいはない。必要ない」と回答。しかし、彼らに家庭を持った場合はどうかと質問すると、約7割が「近所づきあいが必要になる」と答えている。いくら希薄になったとはいえ、世の中には近所づきあいを題材にした落語や小説、ドラマなどがあふれている。
ゴミ出し、騒音問題、火事……近くに住む者同士、顔を合わせることもあれば、関わらざるを得ないこともある。一人暮らしでも、隣で見知らぬ人が事件を起こしていたなんてこともある。いつの間にかトラブルの渦中にいた、なんてことにならないよう、ご近所さんの現代版攻略法を探ってみた。
■ご近所づきあいのメリット、デメリット
現代では悩みの種というイメージが強いご近所づきあいだが、なくならないのにはそれなりの意味がある。もちろんやりかたを誤ってイタイ目を見ることもあるのだが……。まずはそのいい面と悪い面を再評価してみよう!
●メリットは防犯、防災、孤立死の防止
お互いが気にかけることで、犯罪の被害や、子どもが巻き込まれる事件などの抑止に繋がる。都心など、近隣同士の交流が希薄な地域では、空き巣に狙われることも。また、災害が起きてインフラが寸断されたとき、隣近所同士での助け合いが、生死を分けてしまう可能性もある。ケガを負った際に通報してくれたり、応急処置をしてくれる可能性があるのもご近所さんになる。一人暮らしだと、自宅で病に倒れてしまった場合、深刻な事態になることも。最初に隣人が気づいてくれれば、一番話が早い。
●デメリットは煩わしさ、出費、トラブル
たとえば、すでに周りの住民たちの人間関係や上下関係ができあがっている地域へ引っ越してくると、非常に気を使う。実際に隣近所とつきあいを始めると、町内会費、お祝い、お返しなどと出費がかさむようにもなる。さらには礼儀や距離感を間違うと、噂のタネにされたり、嫌がらせの標的になってしまったりすることも。もちろん迷惑をかけ続ければ、苦情や通報を受けることもあり、長く平和には暮らせない。賃貸ではなく家を購入していると、簡単には逃げられないので苦しむことになってしまう。
●長屋、隣組など昔はつきあいが濃厚だった!
江戸時代の庶民の多くは長屋という、細長い平家を薄い壁で仕切った賃貸住宅で暮らしていた。長屋のメンバーは何かと貸し借りしたり、面倒を見たり、助け合うのが一般的だった。お互い目を配り合うので犯罪は少なく、戸は開け放たれたまま。プライバシーはあまりなかった。
第二次世界大戦下、市民は近隣数軒で構成された隣組という単位で行動した。これは物資の受給や避難をまとまって行うためであり、相互監視の意味もあった。戦後も映画『ALWAYS 三丁目の夕日』などに見られるように、隣近所が助け合って暮らしていた。
■ご近所さんに気をつけろ! 現代のお悩み「あるある」
どんな場所にも神経質な人はいるものだし、人が集まれば好き嫌いが発生するのはしかたない。昭和の時代から比べると、ご近所トラブルの内容も変化している。
●最近じゃシカトは当たり前!?「あいさつトラブル」
「何度あいさつしてもスルーされる」(48歳・主婦)
「新築した家に入居するも、近所の人に無視された。家を建てるときにあいさつがなかったと、噂になっていたらしい」(39歳・会社員)
●音という音が問題になる「騒音トラブル」
「乳児の泣き声がうるさいと通報された」(32歳・主婦)
「内見のときは気づかなかったが、階下に足音が響くらしく、大家を通じて苦情が絶えない」(29歳・フリーター)
「夜に洗濯をしたり、掃除機をかけたりするのが許せない」(55歳・自営業)
●地域によってルールが複雑な「ゴミ出しトラブル」
「ゴミの中身を調べるおばさんがいる。なぜか出した人を特定し、家の前に戻すので恐怖!」(24歳・販売職)
「近所にゴミ屋敷があって、火事になったらと思うと不安」(53歳・主婦)
「ゴミ捨て場が毎日カラスに荒らされるが、面倒がって誰も掃除しない」(36歳・会社員)
●誰でも昔は通った道なのに……「子どもトラブル」
「子どもの声や足音がうるさいと嫌味を言われる」(38歳・会社員)
「ママ友の輪に入らなかったら、子どもが仲間外れにされるようになった」(40歳・主婦)
「近所の子どもが勝手に庭へ入って来るので叱ったら、親が乗り込んで来た」(67歳・無職)
「道路で子どもを遊ばせている人がいて、気が気でない。運転もしづらい」(59歳・主婦)
●犬が圧倒的に多い「ペットのトラブル」
「早朝出勤時、隣の犬に激しく吠えられるので、近所迷惑を誘発しているようで肩身が狭い」(54歳・警備員)
「近所の子にいたずらされ、うちの犬が噛んでしまった」(30歳・兼業主婦)
「公園でよく会うワンちゃんとうちの子が遊んだとき、押さえつけられたと文句を言われて態度が一変した」(44歳・主婦)
「去勢していないどこかの家の猫が子どもをたくさん産んで野良猫が増えた。庭におしっこをするので困る」(72歳・主婦)
●押しつけられたら最後!?「町内会・役員トラブル」
「マンションに引っ越してすぐ、役員やゴミ捨て場掃除などを押しつけられた」(36歳・主婦)
「町内会と会費を避けていたら、あからさまにうちの前だけ清掃や雪かきなどがされなくなった」(50歳・自営業)
「仕事柄しかたないのだけど、回覧板を回すのが遅いとキレられた!」(37歳・会社員)
●問題人物の影あり「噂トラブル」
「近所の人の悪口を吹き込んでくる人がいて、対応にとまどう」(27歳・主婦)
「1、2度ゴルフの誘いを断ったら、近所中にあることないこと吹聴された」(62歳・会社員)
「Facebookに中傷を書き込まれた。原因は隣人よりいい車を買ったことだったらしい」(49歳・会社経営者)
●芸能人もご近所トラブルに巻き込まれていた!?
好感度の高い芸能人も、近隣住民からは煙たがられていることがあるからビックリだ。俳優の小栗旬と山田優夫妻は、都内に地上3階、地下1階の豪邸を建てるも、室外機の騒音や、小栗の役者仲間が騒ぐ声などに苦情が殺到した。
反町隆史と松嶋菜々子夫妻のケースはペット絡み。愛犬のドーベルマンが同じマンションに住む女性の太ももを噛んでしまい、損害賠償を起こされた。
また、東山紀之のケースは何とも特殊。東山が住むマンションのジムで、周囲に半裸の肉体を見せつけるのが不快だと住民が騒ぎ出した。週刊誌に取り沙汰されるほどの騒ぎに発展してしまった。
■トラブルに巻き込まれないための5大テクニック
ご近所さんに適当な対応をしていると、ツケが回ってくるかも。押さえるところは押さえて、穏便な生活を死守したい!
テクニック1)事前の口コミ調査で回避
戦術は引っ越しの前のご近所関係リサーチから始まる。マンションの場合は、不動産屋から情報収集する、大家に探りを入れる、またはマンション内のサークル活動などに体験参加してみるなど。戸建は新築なら、最近は数戸まとめ建てし、引っ越し前に入居者をマッチングしてくれるデベロッパーも多い。中古の場合はより慎重に。物件を見に行く際、隣人にあいさつがてら聞き込みをしてもいいだろう。
テクニック2)引っ越しのあいさつで先手を取る
何はなくとも引っ越し時のあいさつはマスト。当日か、1週間以内にはすませたい。どこまであいさつするかは、一戸建ての場合、向こう3軒まで。マンションの場合は同フロアと上下の部屋に。どこにいつ越して来たか、名前、所帯の構成、ペットの有無程度の自己紹介をサラッとにこやかにすまそう。手土産は洗剤やタオル、お菓子がポピュラー。訪ねる時間は18時頃までがいい。
テクニック3)害を与えて評判を落とすべからず
まずはゴミ出しをはじめとする、地域やマンションのルールをチェック。そこを守り、騒音や悪臭を出すなど迷惑行為をしないこと。
テクニック4)NG話題はお金、仕事、愚痴、自慢
あまりプライベートをさらす必要はない。どこにでも競争心や嫉妬心が強い人はいるものだ。嫌味を言われても、謙遜して聞き流すのが正解だ。
テクニック5)いい距離感を保つ
ご近所さんと意気投合することもあるだろう。しかしある程度の期間つきあってみて、よほど信頼できる関係でなければ、家には上げないほうがベター。いらぬ詮索を生んでしまうので、外で集まるほうが気楽だ。
■する? しない? 定番のつきあい
●町内会/自治会
賃貸物件の場合、町内会や自治会に入らなくても大丈夫なパターンが多い。持ち家の場合は、長く住むことを考えると、加入するほうが円滑だろう。だからこそ、家を購入する前に住む場所の町内会のリサーチを行いたい。
●新築のあいさつ/新築祝い
家を建てる前には、必ず近隣住民へあいさつを入れよう。工事車両が通ったり、多少なりとも騒音が発生する。逆に近隣に家が建つ場合は、お披露目に招かれた場合に、お祝いを持参する程度で良い。
●出産の報告/出産祝い
出産後、子どもを連れて自宅に戻ったタイミングで、両隣にはあいさつを。妊娠期間に顔を合わせることがあれば「いつ頃生まれます」と伝えておきたい。育児期間に泣き声が響くこともあるかもしれない。隣に子どもが生まれた場合、特に深い間柄でない限り、出産祝いはする必要がない。
●お見舞い
このご時世、近所の人が入院したからといって見舞いに行くことは減った。事情があって見舞金を包むなら、相場は3,000~5,000円といったところ。
●葬儀への参列
生前の故人にお世話になったのなら、お葬式に参列し、香典も包みたい。ちょっとつきあいがあった程度なら、お通夜までで問題なし。あいさつ程度の関係なら、顔を合わせたときに「このたびはご愁傷さまででした」と声をかける程度で、特にアクションを起こさなくても大丈夫だろう。
●井戸端会議
ムードにもよるが、あまり首を突っ込むとロクなことがない。外出時に出くわすぶんには逃げようもあるが、帰宅時だとスルーしづらいもの。適当な急ぐ口実をいくつか用意しておこう。誘われるなら、頻度にもよるが、3回に1回は参加しても。ただし自分のことは積極的に語らず、聞き役に徹するのが吉。
●LINE交換
通用するなら「LINEはやっていないんです」で押し通すのも手。最初は連絡網だったはずが、悪口や噂の温床になる可能性も。しつこいメッセージへの返信に困る日が来るかもしれない。
●おすそ分け
純粋に田舎から農作物がたくさん送られてきた、といったおすそ分けはいいコミュニケーションになるだろう。ただし貰い物がすべて喜ばれるとは限らない。好みに合わない場合も想定し、量は控えめに。「つまらないものですので、お返しはお気遣いなくお願いします」とひと言添えて渡そう。
●ハロウィン
近年、急速に日本でも定着してきたハロウィン。10月31日に子どもたちが「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ」と言って近所の家を回るというイベントだ。対応法は3つ。(1)飴玉などを見繕っておく。(2)「ごめんね、用意していないんだ」と対応。(3)出かけてしまう。
■アプリが新時代のご近所づきあいツールに!?
住まいの近場での物々交換や、人と人との出会いをマッチングするようなアプリ、ご近所さん向けのネット掲示板なども近年多く登場している。しかし、どのような人間が何を目的に潜んでいるかは分からない。ネットやアプリで知り合った人と安易に居住エリアで会うと、ストーカーなどに発展する危険性も。慎重に利用したい。
■まとめ
顔も知らなかったご近所さんが犯罪を起こした、なんて事件も他人事ではない。周囲にどんな人が住んでいるのかまったく分からないのも怖いが、ヘタにつきあって詮索されるのもつらい。この時代のご近所づきあいに求められるのは、ズバリ「距離感」。引っ越し、出産のあいさつといった最低限の仁義は通し、日頃顔を合わせたらひと言あいさつをする。それだけでも犯罪に巻き込まれたり、災害時に路頭に迷ったりするリスクが軽減できるはずだ。