桐谷健太「au三太郎シリーズの影響力はすさまじかった」日常から吸収する人間力の画像
桐谷健太「au三太郎シリーズの影響力はすさまじかった」日常から吸収する人間力の画像

『au』さんの三太郎シリーズのCMの影響力は、すさまじかったですね。CMなので、普段、ドラマしか見ない人も、バラエティ番組しか見ない人も、テレビをつけていればみんな見る機会がありますからね。街中を歩いていると、“浦ちゃん、浦ちゃん”って声をかけられるようになりました。昨年は、公園で子どもたちに囲まれて、みんなが『海の声』を歌い始めたので、一緒に合唱しました(笑)。

■20代から30代になって経験や引き出しが増えていった

 20代の頃は、浦ちゃんのような陽気な役や、トリッキーな役柄が多かったんですよね。僕自身も、とにかくインパクトを残そう、目立つことが一番大事だと思って、エネルギーを、外に外に出そうとしていました。

 でも、今は陽気な役からシリアスな役まで様々な役柄のお仕事を頂けるようになってきた。それって、僕自身も変わってきたということなんだと思うんです。お芝居って、本来自分の器の中にあるものしかできないと思うんです。もちろん、自分とはまったく違う人間性でも衣装やセリフ、想像力で魅せることはできる。

 でも、本当に人を感動させられるのは、器の中にある本物でないとできないと思うんですよ。たとえば、イスに座って俯いている、それだけでもインパクトを残せるのって、それが本物じゃないとダメだと思う。そういう意味で、頂ける役の幅が増えたというのは、20代から30代になって、僕自身の経験や引き出しが増えていったということなのかなと思っています。

 撮影現場で経験を積むことももちろん大切だと思いますが、僕は日常が一番大きいと感じています。演技のことを抜きにして、日々の生活の中で、生身の自分が受ける感覚。それに神経を研ぎ澄ませることが、何より大事なんじゃないかなと。たとえば、友達と行ったカラオケで、変な踊りが生まれたら、それを記憶にとどめておく。そうすると、台本を読んでいる時とかに、そのシーンがふと浮かんできたりすると、それが演技に使えたり。

■旅で秘境に行ったら…

 ほかにも、僕は旅が好きなんですけど、秘境と呼ばれるような未開の地に行くと、嫌でも自然の脅威が見えてきて、自分の弱さが見えてくるんですよ。以前、1000メートル級のテーブルマウンテンから流れる滝の横にテントを張っていたら、雨が降ってきて、雨宿りができるような場所もなく、テントの中まで水浸し。そういう時の感覚を覚えておくと、“あの時の俺と似てるやん”と、役と繋がる時があるんです。

 そう考えると、自分の経験の幅を広げていかなくてはいけないし、自分の中に生まれる感覚を注意深く見ていなくてはいけない。でも、子どもの頃から、そういうのが好きだったんですよね。高校生の頃には、ポエムノートを書いていたぐらいですから(笑)。

■映画『ビジランテ』は新鮮な気持ちで演じられた

 今回の映画『ビジランテ』で頂いた役は、本当にやりがいのある役でした。暴力で家庭を支配する父を持つ三兄弟の三男役なんですが、それぞれ、違う生き方をしてきた3人が、父の死を機に再会し、衝突するというお話です。演じた三郎は、父への反抗心から裏社会で生きている。正直、台本を読んだ時は、自分と重なる部分がなくて、わからなかったんです。

 うちのおとんはめちゃくちゃ明るいし、帰省したら一緒に飲みに行くほど仲もいい。唯一の共通点は、兄貴がいるってぐらいでした。でも三郎の服を着てブーツを履いて深谷の冷たい風を受けた時、一気に三郎が入ってきた。なので常に新鮮な気持ちで演じられました。頂いた役に一生懸命にぶつかっていく。こういう役をやりたいとか、何歳までに、こうなっていたいとかは、あまり考えないんです。

 一日一日を遊びの気持ちを持って、今に集中して生きていけば、自分が想像していた未来よりも、いいところに行けると思うんです。そういう風に、年を重ねていきたいですね。

撮影/弦巻勝

桐谷健太(きりたに・けんた)
1980年2月4日生まれ。大阪府出身。02年、ドラマ『九龍で会いましょう』で俳優デビュー。翌年、井筒和幸監督の映画『ゲロッパ!』で映画初出演を果たす。11年には、エランドール新人賞を受賞。その後も大河ドラマ『龍馬伝』をはじめ、数々の話題作に出演。15年から放送される『au』のCMで浦島太郎役を演じ、一躍脚光を浴びる。同CM内で歌った『海の声』でNHK紅白歌合戦への出場も果たし、マルチな才能を発揮し、活躍中。

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