田代まさしが語る「芸能人がクスリにハマってしまう理由」の画像
田代まさしが語る「芸能人がクスリにハマってしまう理由」の画像

 かの有名な酒井法子やASKAの事件だけでなく、今年6月に俳優・橋爪功の息子で俳優の橋爪遼・元被告(現在、執行猶予期間中)、10月にモノマネ芸人・清水アキラの息子でタレントの清水良太郎被告が逮捕されて、2017年も大騒動となった芸能界の薬物汚染。最近でも、12月に俳優・浅野忠信の父親で浅野の所属事務所社長の佐藤幸久容疑者が逮捕されるなど、一向に収まる気配はない。こうも逮捕される芸能人が後を絶たないのは、なぜか。

 我々は、歌とお笑いで一世を風靡し、その後、薬物依存症に陥ってしまった元タレント・田代まさし氏を直撃し、芸能界の薬物汚染と、薬物の怖さ、そして、依存症からの脱却について、話を聞いてみた。

 現在は薬物依存者を支援するNPO法人『日本ダルク』のスタッフとして働きながら、全国で薬物依存に関する講演を精力的に行っている田代氏は、相次ぐ芸能人の薬物逮捕について、こう語る。「捕まったらニュースになるから目立つだけで、芸能界だけ特別ということはないと思います。ただ、確かに芸能人のほうが、一般の人より手に入りやすいということはあるかもしれませんね。いろんな人との接点も多くなりますから、薬物を売る人と出会う確率は比較的に高いのかもしれない」

 しかし、有名人ともなれば、普通の人以上に慎重になるはず。それでも薬物に手を出してしまうのは、なぜなのだろうか。「私の場合、プレッシャーでした。周囲のおかげで芸能界に復帰し、仕事がパンク寸前のときでしたから」

 田代氏が薬物で逮捕されたのは2001年のこと。その前年に田代氏は電車内での迷惑行為で書類送検され、一時、活動を自粛したが、半年後に復帰。薬物にハマッたのは、人気絶調の、そんなときだった。「毎日、面白いネタを何本も考えるのは、もう限界だと思っていたんですよ。でも、仕事はどんどん増えていくし、復帰を助けてくれた人たちの期待にも応えなくてはいけない……そんな板挟みの心境でした」

 田代氏は、子どもから大人まで皆に愛されるお笑いタレントだった。しかし、番組の収録が1日4本、5本と増えていく中で、徐々に神経を磨り減らしていく。そんなとき、あるテレビ関係者から“いいモノありますよ”と声をかけられたのだという。「すぐにピンときましたけど、この状況が前に進むのなら1回くらい、いいかなと思ってしまったんです。それも一つの解決策かなと。芸能界という荒波に揉まれて溺れそうになっていたときに、“違法”と書かれた浮き輪が流れてきて、とっさにつかまった……そんな感じでした。だから、そんなに罪悪感はなかったんです。絶対に1回でやめられると思っていましたし」

 我々には想像もできないプレッシャーのかかる芸能界では、田代氏のように、それを必要だと思ってしまう人も多いのかもしれない。また、金回りの良い芸能人なら、高額な薬物でも簡単に買えてしまうという事情もあるのだろう。「そのときも、最初はタダでいいよと言うんですよ。でも、その人のところへ続けて買いに行っちゃう」

■激痩せも、プロボクサーみたいでかっこいいって…

 欲しがる人がいるから、そこに売人が集まる。田代氏によれば、彼ら売人は、欲しがる相手を見つけるのが抜群にうまいのだそうだ。田代氏も、04年に2度目の逮捕、その後も復帰しかけるたびに逮捕された。そこまで執着してしまうのは、なぜなのか。「面白いネタが機関銃のようにどんどん出てくるから、悩んでいた自分がバカみたいに思える。後で考えてみると全然、面白くなかったりするんですけどね。やっぱり、感覚がおかしくなっていたんですよ」

 3度目の逮捕のときの激痩せした田代氏の映像を、覚えている読者も多いことだろう。そのときの心境を田代氏は、こう話す。「実はあのとき、絶好調だと感じていました。体は軽いし、減量に成功したプロボクサーみたいでカッコイイなって思っていたんです。今思えば、見るからに不健康なのにね」

 だが、クスリが切れると、その反動から、疲労で起き上がることもできなくなる。だから、またクスリを打って“元気”になろうとする。その繰り返しで、体はボロボロになっていく……。

■家族が去ってしまったことが一番つらかった

 薬物で多くのものを失った田代氏に、一番つらかったことを聞いてみると、こう話してくれた。「やはり、家族が去ってしまったことですね。いつも一緒にいて、あんなに楽しかったのに。家族が何不自由なく暮らせるよう愛情を注いでいたのに……。あのときは“これだけのために俺から去っていくのか”って思っちゃいましたけど、考えてみれば、いろいろあったんだと思います。子どもの学校のこととか、近所のこととか。お義母さんからも手紙をもらったことがあるんです。“いろいろ良くしてもらったけど、今回の件で洗濯物も外に干せなくなりました”って」

 だが、それだけつらい目に遭っても、同時に“まだ、やりたい”と思ってしまう自分がいたのだという。「これがクスリの魔力です。“1回でも多すぎて1000回でも足りない”といわれている」

 1回で虜になり、そうなると1000回やってもまだ、やりたくなる……なんとも恐ろしい言葉だ。「自分のような立場の人間が、してはいけないことをしてしまったという自覚はあります。それに、周囲の人たちには本当に迷惑をかけましたから、反省もしています。だから記者会見では、“二度としない”と言いました。実際に“必ずやめてみせる”とも思いました。でも本当は、やめられる自信はありませんでした。実は今でも、やりたいと思うときがあります。それが苦しくて、死のうと思ったこともありましたが、そんなときでも“どうせ死ぬなら、その前に一度……”と思ってしまう。こんなことを言うと、ふざけてるとか、甘えてるとか思われるかもしれませんが、薬物依存は、そういう“病気”なんだと、この施設で学びました。しかも、不治の病なんですよ」

 やめたい、やめられると思う自分がいる反面、やりたい衝動が頭をもたげてきて、体が反応してしまう。そんな葛藤が常につきまとい、一生続いていく。それが薬物依存の実態なのだ。「でも、そんなことを、こうして外に対して言えるようになったことこそが、回復への第一歩なんです」

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