■七大タイトル完全制覇を2度達成

 一方の井山氏は、名誉称号こそ、まだ3つと、永世七冠の羽生氏にはかなわないものの、七大タイトル完全制覇を2度達成しているのがすごいところ。「2016年に囲碁界で初の七冠独占を達成し、同年に名人位を失うものの、翌17年も神がかった強さを持続して残りの6タイトルをすべて防衛。名人位も取り戻して、再び七冠独占を達成しています」(全国紙囲碁担当記者)

 これがどれだけの偉業か、将棋と比較してみよう。「羽生名人は96年に、囲碁・将棋界を通じて初の七冠独占を果たしましたが、次の防衛戦となった棋聖戦で敗れ、七冠独占は167日に終わり、翌年には四冠に後退しています。そこからも、七冠を2度達成することの難しさがよく分かるでしょう」(前同)

 四冠でも“後退”と言われてしまう羽生氏も恐しいが、史上初の快挙をさらりとやってのける井山氏の強さと天才ぶりには、やはり驚くしかない。「井山氏と囲碁との出会いは5歳。父親が買って来たテレビゲームで囲碁を覚え、3か月後には、父では歯が立たなくなり、半年後に5級、さらに半年で三段にまで駆け上がっています。6歳で囲碁の対局番組に出演すると、大人相手に5人抜きの快挙を成し遂げ、以降、数々の最年少記録を樹立してきたのが、井山氏なんです」(囲碁専門誌記者)

 井山少年は、中学1年でプロ入りを果たすと、「5%しかプロに上がれないというプロ養成機関の院生リーグを、46連勝を含む71勝8敗という圧倒的な成績で勝ち抜けて入段、平成生まれ初の棋士としても注目されました」(前同)

 08年には史上最年少の20歳で名人位を獲得。以降、現在まで快進撃が続く。本誌で「詰碁」の出題をお願いしている小島高穂九段は、その強さの秘密を、こう解説してくれた。「全局的な発想に長けた井山七冠は、決まったスタイルを持たず、どんな碁も柔軟に使い分けながら、常に最強にして最善の手を求めて、妥協することがありません。タイトルを獲っても、守りに入るようなことがなく、まだ進化を続けているのは、そのためでしょう」

●いよいよ世界の頂点も視野に

 現在の日本の囲碁界は、中国、韓国に遅れを取っており、国内では無敵の強さを誇る井山氏も、最新の世界棋士レーティングでは、まだ15位。だが、「昨年11月、井山氏は囲碁の世界棋戦『第22回LG杯朝鮮日報棋王戦』の準決勝で、世界最強とされる中国の柯潔九段を破り、初の決勝進出を決めています。2月の決勝3番勝負に勝てば、いよいよ世界一。着実に世界との差を縮めています」(前出の専門誌記者)

 偉業を達成した2人の天才は、今もなお、進化し続けているのだ。

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