「豪快に使います」 2月25日に行われた東京マラソンで16年ぶりに日本記録を更新した設楽悠太に日本実業団陸上競技連合から1億円のボーナスが贈られることが決まった。高岡寿成が2002年10月にマークした日本記録を5秒上回る2時間6分11秒を叩き出し、日本人トップの2位に入った。1億円の使い道について問われた設楽が発したのが冒頭のコメントだ。勝負師らしくて好感が持てた。

「引退後に備えて、しっかり貯金でもします」 なんて言われた日には送り主もガッカリだったろう。ボーナス支給制度が導入されたのが15年3月。当初は「安直だ」「記録をカネで買うのか」との批判もあったが、かつて日本の陸上を支えた長距離界には背に腹かえられない事情があった。

■東京オリンピック表彰台を見据えて

「5年後(当時)に東京五輪を控え、もう、きれいごとは言っていられない。少しでも選手の励みになれば……」 同連盟の関係者は、私にそう語ったものだ。設楽の16年ぶりの日本記録更新で2年4カ月後に迫った東京五輪に薄日が差しつつある。マラソン部門の責任者である瀬古利彦プロジェクトリーダーは「おめでたい話だ」と語っていた。この1月に瀬古と会った際、「期待する選手は?」と聞くと昨年12月の福岡国際マラソンで日本歴代5位(当時)の2時間7分19秒で3位に入った大迫傑とともに設楽の名前をあげていた。「マラソンを2回(2時間9分27秒、2時間9分3秒)続けて2時間9分台で走っている。ある意味、大迫より強いかもしれない。彼は本番で自分のリミッターを解除できる選手」

 瀬古の目に設楽が“新人類”と映るのはマラソン練習の王道とも言える40キロ走を行わないからだ。「40キロ走がマラソンにつながるとは思わない。走り込みとかは、もう昔の話」と設楽。「泥臭い練習が必要だ」と語る瀬古とは、明らかに一線を画す。日本初の“1億円男”は東京の表彰台を見据えている。

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