■習近平に会いに中国へ

 平昌五輪をきっかけにアメリカへ接近。続いて、「対中関係の改善へと舵を切りました。正恩氏がトップに就任してからの6年間、中国サイドから再三再四、訪中を促されてきましたが、ああだこうだ言って拒否。習近平国家主席に“平壌か、国境の新義州なら会っても良い”などと、ダダをこねまくっていました。そんな生意気な若造が、“お目にかかって教えを乞いたい”と豹変。習氏は悪い気がするはずもなく、結果、正恩氏を“非公式訪問なのに国賓扱い”としたのです」(前同)

 正恩氏の狙いは? 井野氏が続ける。「金正恩氏の本音は、“今は低姿勢な態度を示したほうがいい”というもの。全面的な服従ではありません。今、北朝鮮は核戦力を充実させており、韓国、米国との首脳会談開催の約束も取りつけた。そうした追い風を背景にしたうえで、習近平氏に会いに行った訪中だとみるべきでしょう」

 伝統の三枚舌を使い分け、“貧すれば鈍す”の現状を打破せんと考えたのだろう。「今回、一連の正恩の行動は、米国とのチキンレースにおける疲労、不安、また経済制裁がボディーブローのように効いてきて、焦りが生じていたことも原因の一つでしょう」(前同)

■次に狙うは、ロシアと日本!

 だが、着々と成果は出ている。平昌五輪、4月27日開催の南北首脳会談で、完全に取り込まれた韓国。3月末の訪問で、ハートをつかまれた中国。そして、5月末までに首脳会談を開催する予定のアメリカ――米中韓を押さえた北朝鮮が次に狙うのは、2つの国。その1つが、ロシアだ。「ロシアの極東部に位置するウラジオストクから、北朝鮮との国境までは約150キロほど。車を飛ばせば2時間ほどの距離で、地政学上でも、北朝鮮はロシアを重要視せざるをえません。北朝鮮の李容浩外相は4月9~11日の日程で、ロシアを訪問し、ラブロフ外相と会談します。これは、プーチン大統領と金正恩の首脳会談を開催する布石だというのが、国際評論畑での共通認識です」(外交筋)

 もう1つのターゲットが、我らが日本。「森友学園問題に揺れ、支持率を下げた安倍首相は、9月の党総裁選を前に手柄が欲しい。北朝鮮問題を進展させたとなれば、小泉純一郎元首相以来の快挙です。安倍首相は“地球儀外交”で各国首脳とつながり、実績を残してきました。たとえば、官民一体で進めてきたトルコへの原子力発電所の輸出は、総事業費が5兆円以上の巨額なビジネス。しかし、安倍政権は北朝鮮とのパイプがない。ここで話の端緒でもつかめれば、支持率の回復も見込めます」(全国紙政治部記者)

 韓国、中国、アメリカ、ロシアと異なり、日本政府とは、具体的な接触の話が何もない現状。ここで正恩氏は、奇策を弄して接近してくる。「3月30日、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は、北朝鮮へ出向き、正恩と会談。そこで正恩は、“2020年の東京五輪に、選手が参加できるようサポートしていく”とコメント。融和姿勢をアピールしつつ、日本へ秋波を送りました」(前出の全国紙政治部記者)

 続けて、4月4日午後には、バッハ会長と安倍首相が緊急電話会談。「北朝鮮訪問についての説明があったと、確かに聞いています」(前同)

■6兆円くれるなら核廃棄してもいい!?

 迂回しながらも、“平和外交”を進める正恩氏。先日までミサイル発射を繰り返してきたこの変節漢は、何を考えているのか?「昨年5月、“毎年6兆円をタダでくれるなら、核廃棄をしてやってもいい”と話しているとの報道が出ました。これは、その前年から北朝鮮が中国と秘密裏に交渉していた話で、毎年の6兆円は“アメリカ、中国、韓国、ロシア、日本が出す”というもの。核廃棄をカードに、非現実な要求をして、そこそこの額の支援を引き出すというのが、北朝鮮流の交渉術なのでしょう」(同)

 先にも触れたが、“非核化”はお決まりの常套句。前出の辺氏が言う。「オバマ前大統領時代の2012年2月、金正恩氏は核実験やミサイル発射実験を一時停止すると表明していましたが、その2か月後、合意破棄を一方的に通告。続けて、“人工衛星”と称し、長距離弾道ミサイル(テポドン)を発射しています」

 伝統の三枚舌で、世界を振り回さんとする北の暴れん坊将軍。真意はどこに!?

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