又吉直樹
又吉直樹氏

 自分が作ったものを人前で発表して、喜んでもらえるっていうのが、すごく好きなんですよ。ネタとか、エッセイができたら、すぐ近くにいる後輩や、付き合っている人がいれば、彼女に読んで聞かせるんです。そのとき、“おもしろかった”って言われるのが、何よりの喜びなんです。

 ライブも同じで、自分が考えたことを発表できる空間は何ものにも代えがたいなと思っています。いろんな仕事を頂けるようになったんですが、その空間がなくなってしまうと、いくらお仕事を頂いても、僕はあっさりと辞めると思います。

 それがあるから、他の仕事も楽しくできているけど、なくなってしまうとバランスが崩れてしまいそうな気がします。

 もちろん、締切があるので、それ自体は辛いですよ。特に、僕は計画性がないので。締切が2、3か月先だったりすると、それまでにやっておけばいいんちゃうと思って、引き受けるんです。それが、締切の1週間前に、“これどうすんねん。絶対に終わらん”って、その繰り返しです。

 ただ、自分の中で何も残っていないっていう状態を作っておきたいんですよ。ネタのストックがあると、“次あれ書こう”みたいになってまうんですが、それを全部使い切って、何もないってなったときに、何が書けるんだろうっていうことをすごく楽しみにしていますね。

 小説は、2作しか書いていないので、まったく湧いてこないかもしれないですが、コントとかを作ってきた感覚で言うと、出てくるはずなんですけどね。

 芸人としても、まだまだ途中だと思いますし、成功したっていう感覚はありませんね。ただ、なんとか17年間続けてこられたのは、嫌われ慣れていたっていうのが、大きいかな。

 芸人を始めたときは、みんな素人やから、能力差みたいなものはないと思うんです。みんな子どもの頃から人気者で、芸人になろうと思った人が多い。

 その人たちは、自分が言ったことで、誰も笑わないとか、講師から怒られたりすることに堪えられないんだと思います。僕の場合は、学生時代から、怒られ慣れも、嫌われ慣れもしていましたから(笑)。

 サッカー部やったんですけど、パス練習で組んでくれるチームメイトがいないぐらい、孤立していました。あと、隣の中学のやつには、“しばく”って言われて、追い回されていました。不良でもなんでもなかったのに、もう、本当に最悪の状況でした。

 ちゃんと嫌われたことがあるので、芸人になって、ちょっとスベっても、そんなもんやろうって思っていました。人気がでなくても、やっぱり、嫌われるんや、簡単に騙されへんもんやなっていうぐらいで、落ち込まなかったです。

 子どもの頃からなんですが、好きなものに迷いがないんですよ。たとえば、世界で一番これがエロいし、みんなが見ているってエロ動画を見せられても、それで、自分が興奮できるかどうかはわからないと思うんです。

 ただ、それがお笑いとか、文学のような芸術的な物に寄れば寄るほど、自分がおもしろいと思っているものは、実はおもしろくないんじゃないかという迷いが起こる。

 格好つけて、みんながおもしろいって言うものを好きって言ってしまう。もはや、この作品でおもしろがれるように頑張らなきゃいけないみたいな状況になる。それが、僕にはピンとこないんですよ。

 自分が好きなもの、興奮するものが、周囲と違っていても平気なんです。そういう意味で今回演じた『海辺の週刊大衆』の主人公はうらやましくもありますね。

 無人島に漂着して、そこに同じく漂着していた週刊大衆で、様々な妄想を繰り広げていく。周囲の目などの雑音を気にせずに、自分の好きなことを妄想し続けることは、とても幸せなことなんだと思います。

 僕自身も、自分が好きなものは明確にありますが、その魅力を伝えるためには技術が必要ですから、それが自分にあるかと聞かれれば、まだまだやなって思います。

又吉直樹(またよし・なおき)
1980年6月2日、大阪府生まれ。高校卒業後の99年、吉本興業の養成所であるNSC東京校に入学。03年に、同校の同期である綾部裕二と、お笑いコンビ『ピース』を結成。お笑い芸人としてブレイク後の15年に『火花』で小説家デビュー。同作でお笑い芸人として史上初となる芥川賞を受賞。同作は300万部を超える異例のベストセラーに。現在も、お笑芸人として、ライブ、テレビ番組に出演するとともに、執筆活動も行っている。

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