■武器使用の基準は警察官職務執行法

“戦地”に派遣され、不十分な装備で任務を遂行しなければならない自衛官だが、その命を危険にさらす最大の壁が「武器使用基準」だ。自衛官が武器を使用する際の基準とは、実は、警察官職務執行法なのである。「この法律では、正当防衛、または緊急避難の要件に該当するケース、それから凶悪犯罪の犯人が職務執行に抵抗するときなどの場合を除き、武器の使用は認められていません。つまり、“兵士”であるはずの自衛官が警察官と同じ扱いになっているんです。たとえば、宿営地を狙ったテロなどのリスクがついて回るにもかかわらず、“撃たれるまで撃つな”が基本なんです」(元陸自幹部)

 これでは、反撃したくとも、手負いにならなければ反撃できないことになる。前出の黒鉦氏が、こう憤る。「私の知り合いの自衛隊幹部の中には“危ないと思えば躊躇なく撃て。責任は俺が取る”と、密かに部下に伝えている人もいます。軍隊として当然のことを密かに伝えないといけないような“いびつな軍隊”が、他にあるでしょうか」

 取材すればするほど、日報問題の裏では、日本の安全保障の問題点が浮き彫りになってくる。日本にとって喫緊の課題となっているのが、「防空識別圏」(領空に準じる空域)だ。特に、尖閣諸島の領有を主張する中国の空軍機が頻繁に飛来する事態は、見逃すことができない。「1987年12月9日、旧ソ連の偵察機が日本の領空を2回、侵犯しました。本来であれば、領空を侵した旧ソ連機は撃ち落とされても文句を言えません。それにもかかわらず、このとき、沖縄の那覇基地からスクランブル発進したF4戦闘機2機は警告射撃を行っただけ。これが、日本の自衛隊が実弾を発射した唯一の事例です。また、16年には東シナ海上空で、中国軍の戦闘機が空自の戦闘機に攻撃動作を仕掛けたこともありました。空中戦では一瞬の判断が命取りになるだけに、日本の武器使用基準が彼らの生命のみならず、日本の安全保障の大きな足かせになっているんです」(元航空自衛官)

 いまだ“戦地”で自衛官が戦死したという事例は報告されていないが、その危機は絶えず、つきまとっているという。ある自衛隊関係者は絶対匿名を条件に、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)による自殺はどの軍隊にもあります。PKOに従事した自衛官が現地でのジレンマから帰国後、PTSDを発症し、自殺に至るケースは一定量あったと考えています」と訴えている。これだけでも問題だが、世界から“正規軍”と認められていない自衛隊は「ジュネーブ協定」とも難しい立場にいるのだ。前出の竹内氏が話す。「ジュネーブ条約とは、交戦時の負傷者や捕虜の取り扱いなどを定めたもの。その中で自衛隊は準軍事組織に該当します。準軍事組織は交戦相手国への通報と了解を得たうえでないと、条約が適用されないんです」

 つまり、自衛官が捕虜になっても、ジュネーブ協定上の扱いを受けられないかもしれないというのだ。「仮にですが、自衛官が派遣先で過失によって民間人を殺害してしまった場合、軍隊でない自衛隊には軍法会議や軍事裁判がなく、殺害してしまった個人の犯罪として裁くほかないという矛盾も存在します」(前同)

■陸自は大幅にバージョンアップされたが

 公文書の改ざんはむろん、“あってはならないこと”だが、日報問題を紐解いていくと、“あってはならないこと”ばかり起こる自衛隊の姿が浮かび上がるのだ。「この4月、陸自は大幅にバージョンアップされました。1日には16式戦闘車を配備した『即応機動連隊』が創設され、4日には戦前の陸軍参謀本部を復活させた『陸上総隊』が誕生。さらに7日には日本版海兵隊ともいわれる『水陸機動団』が創設されたわけです。しかし、そのタイミングで日報問題が発生してしまった。つくづく気の毒だなと思います」(黒鉦氏)

 では、“あってはならないこと”をなくすには、どうすればいいのか。前出の山村氏は、こう分析する。「安倍首相が提唱する憲法9条への自衛隊の明記ですが、これだけでは解決できません。本質的には、現場の指揮官に、どれだけ裁量を与えるかという問題なのですが、今すぐ解決できる話ではありません」

 日本の安全のために日夜活動する自衛隊が、名実ともに日本の安全保障を担えるようになる日は来るのだろうか。

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