小林幸子
小林幸子

 今年デビューから54年を迎える小林幸子さん(64)は大御所歌手ながら、若い世代からも“ラスボス”として支持を集める存在。世代を超えて愛され続ける稀代の歌姫の魅力、そしてその原動力に迫る――。

――幸子さんといえば、『おもいで酒』や『雪椿』など数々のヒット曲を世に放ち、豪華衣装でおなじみの『NHK紅白歌合戦』には34回出場。その一方、最近では、演歌になじみのない若い人たちからも人気を集めていますよね。

小林 おかげさまで、ここ4~5年は、ネットの人たちと巡り合えたことで、若い人たちが本当に応援してくれています。

――『紅白』での豪華衣装がロールプレイングゲームの最後の敵(=ラスボス)を彷彿とさせることから“ラスボス”の愛称でも親しまれていますよね。ご自身では、どう思っていたんですか?

小林 はじめは“ラスボス”の意味も知らなかったんですけど、皆さんが面白がってくださることは、いいんじゃないかな、と。

――そうした中、“ボカロ曲”をカバーした『さちさちにしてあげる♪』や『千本桜』を世に放ち、さらに人気を集めました。

小林 あれも、「なんだか面白そうだな!」っていうのがキッカケなんです。正直、はじめは「ボカロって何ですか?」って感じだったんですが(笑)。「面白いんですよ!」って言われて「そうなんだ!」というところから、いろいろと勉強させていただく中で、興味を持ちはじめて……。この間も『VOCALOID4 Library Sachiko』という私の歌声を元に制作した“歌声ライブラリ”を作ったんです。

――これを使えば、パソコン上で“小林幸子の歌声”を再現できるんですよね。

小林 私の声が全部入っていて、(ボーカロイドの)初音ミクさんと同じ状況になっています。分かりやすく言うと、私がこの世界からいなくなっても、小林幸子の歌を作る人がいたら、小林幸子の新曲ができるんですよ。

――自分の死後も歌声が残って、新曲を発表できるというのはすごいですね。

小林 ボカロのレコーディングは生まれて初めてだったんですけど、まるで魔法使いになって呪文を唱えているみたいでしたね。音程はパソコンで上げたり下げたりすることができるんですけど、それ以外の濁音とか、初音ミクさんにはない“こぶし”とかも入れたりして。「こういう時代なんだなぁ」と、すごく面白かったです。

――常に「面白い」が原動力なんですね。新たな挑戦をすることに抵抗はないんですか?

小林 自分の許容量を超えていくというか、いろんなことをやらせていただくのは楽しいです。「自分はこうでなくてはいけない」とか、「演歌を何年も歌っているから……」とか、そういうことを考えるよりも、「今を楽しもう!」と。「今、遊ばなくて、いつ遊ぶ?」と思っています。

■インターネットの世界へ

――何よりも“今”を大切にするということですか?

小林 「思い込みを捨て、思いつきを拾う」という言葉が大好きなんです。「私はこうだ!」と思い込んでいるのは、自分で勝手に囲いを作っているだけであって。その囲いを取り払って、扉を開いたところに、新たな楽しいことが待っているんじゃないかなって。皆さんにもきっと、見えていないだけで“囲い”や“扉”はあると思うんです。それを取り払ったり、開けたりした瞬間に、世界が広がる。私の場合、それがネットの世界でしたね。

――昨年12月には、約1年半ぶりの新曲『存在証明』をリリースされました。

小林 今回は詞、曲とも志倉千代丸さんというゲーム、アニメの世界では有名な方が手掛けてくださって。小林幸子という歌い手に、どういう歌を歌わせたいかと。それに賭けて、私からは一切、リクエストはしませんでした。曲が出来上がったときは、いい意味ですごいショックでしたね。

――ショックとは?

小林 「否定の検索に価値はない」とか、今まで歌ったことのないような歌詞がバンバン出てきて。インターネットの仕組みは素晴らしいと思うんですけど、ネット社会で膨大な情報に触れる中で、自分がどこにいるのか、どうしたらいいのか分からないと思い悩み、中には自殺する若い人たちもいる。そうした人たちに、「今のままでいいんだよ」「自分の存在を認めてあげればいいんだよ」という内容の歌なんです。

――まさに時代を反映した歌ですね。

小林 さいたまスーパーアリーナで行われた『ニコニコ超パーティー』で歌ったら、たくさんの子たちが泣いていました。ネット社会の中で、四面楚歌になっている子たちもいたと思うんです。

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