御嶽海
御嶽海

 先場所の負け越しで、6場所ぶりに関脇陥落。大関取りの重圧から開放され、心機一転、巻き返しを誓った信州生まれの黒豹の胸中に迫る!(取材・文:武田葉月/ノンフィクションライター)

 横綱・鶴竜の優勝で、幕を閉じた大相撲春場所。4月上旬からスタートした春巡業は連日満員で、相撲人気の高さを物語っていた。そんな中、明るい笑顔でチビッコ力士に胸を出すなど、サービス精神旺盛に土俵を盛り上げていたのが、小結・御嶽海である。昨年から今年にかけて、5場所連続で関脇の座に君臨。「大関に最も近い男」と言われていたが、春場所は7勝8敗と苦杯を舐め、“大関獲り”は一旦、白紙に……。再チャレンジに燃える御嶽海を直撃した!

――巡業中は精力的な稽古を積まれていましたね。

御嶽海(以下、御) 春場所、久しぶりに負け越してしまったでしょう。“大関候補”と言われて、関脇にずっといるのは、キツいものがあるんですよ。大関昇進は、10勝以上しなければならない(昇進基準は3場所で33勝以上)ので、自分の中で“二ケタ勝利”にこだわって、疲れてしまった部分もあったんです。負け越したことで、逆にリセットできました。

――関脇に居続けるというのは、厳しいものですね。

御 ハイ。でも、今回負け越して、なぜか悔しくなかったんですよ。昨年九州場所、今年の初場所で、8勝、9勝と二ケタに届かなかったときのほうが悔しかった。負け越して、ただ勝ち越しただけじゃ、上に行けないんだということが身にしみました。今は体の動きも悪くないですし、これから「意識を変えていく」という意味では、いい経験だったと思っています。

■学生横綱とアマチュア横綱を獲り、入門

 御嶽海久司、25歳。小学1年生から始めた相撲で、中学、高校、大学を通じて大活躍。東洋大4年のときには、学生横綱とアマチュア横綱のタイトルを獲り、“アマ十五冠”の実績をひっさげて、15年春場所、幕下10枚目格付け出しでデビュー。四股名は、地元、信州の山・御嶽山(おんたけさん)から、音を変えて、御嶽海(みたけうみ)。所要2場所で新十両、5場所で新入幕を決めた。

――大学卒業後は、和歌山県庁に就職が決まっていたそうですね。一転、相撲界への道を選んだ理由は、どこにあったのでしょうか?

御 大きかったのは、4年で学生横綱とアマチュア横綱を獲ったことです。大学は違いますが、2学年上に(アマチュア横綱と国体を制して、幕下10枚目格付け出しで入門した)遠藤関がいらして、入門以来、大活躍されていて……。それまでは、「遠藤関、すごいなぁ」と見ていただけだったんですが、タイトルを獲って、「自分も行けるかも……」という気持ちに変わったんです。

――入門後は、遠藤関とほぼ同じペースで、幕内に昇進。プレッシャーを感じることもあったのでは?

御 バリバリありましたよ(笑)。幕下10枚目からのスタートですし、周りからは「アマ横綱なんだから、勝って当然だろう」と見られている中で、相撲を取るわけですから。それまで感じたことのない緊張感の中での土俵でした。だから、6勝、6勝で新十両を決めたときは、本当にホッとしましたね。

――その後も順調に番付を上げて、16年九州場所では新三役に昇進。幕内・北勝富士関らと結成する「平成4年組」の出世頭です。

御 今、25歳、平成4年生まれの力士同士は仲がよくて、番付とか部屋とか関係なく、巡業中も一緒に飲んだりしているんですよ。番付的に自分が上なので、ライバルと思ったことはありません(笑)。北勝富士関は意識してくれているようですが、「眼中ねえよ」って言ってます(笑)。ライバルという意味とは違いますが、意識しているのは大関・高安関です。高安関と僕の母親がともにフィリピン出身ということもあって、ふだんからかわいがってもらっているんですよ。(高安関が昨年の名古屋場所で)大関に昇進するまでは対戦成績も五分五分だったんですが、この1年で差が開きましたからね。「この差はなんなんだ!」って、悔しくて(笑)。春場所14日目の対戦は、攻め込んだものの、最後は突き落とされて負け越しが決定。でも、結果がすべてなんですよね。

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