金正恩も知らない、北朝鮮の「リアルな実態」の画像
金正恩も知らない、北朝鮮の「リアルな実態」の画像

 どの国で暮らしていても、同じ人間であることは変わらない。これまで語られなかった人々の真実の姿とは――!?

 4月27日の南北会談で、手を取り合って国境を渡った北朝鮮の金正恩朝鮮国務委員長と韓国の文在寅大統領。終戦か、それとも見せかけか――現在、その動向を世界中が注目する北朝鮮の実態を描いた一冊の本がある。『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』(双葉社)。著者は金柱聖氏。在日朝鮮人で、70年代に「帰国事業」で北朝鮮に渡り、同国の朝鮮労働党傘下にある宣伝扇動部・朝鮮作家同盟で作家となった人物だ。そして2009年に脱北、現在は韓国で暮らしている。そんな柱聖氏が、30年にわたって見てきた北朝鮮の人々の実態を語った。

■金正日体制下では脱北者の家族に危害を加えていた

「南北首脳会談の少し前、北朝鮮に残る脱北者の家族の元を党幹部が訪れ“今後は韓国に脱北した家族と自由に連絡を取り、送金してもらいなさい”という指示があったそうです。金正日体制下では、北に残された脱北者の家族に危害を加えたりしていましたが、正恩氏は違う。彼は今後の南北の関係性を見据え、脱北者の存在を認め、信奉者を増やそうとしているのではないでしょうか。実は、脱北して韓国に渡ってから、韓国社会になじめず北に戻った人を何人か見てきました。韓国では3万人に上るという脱北者を煙たがる人たちも少なくないんです。そんな中、南北が友好ムードに包まれ、戻っても制裁を受けることはない、と思えば、また北に戻りたいと考える人は増えるかもしれません」

■「地上の楽園」だと信じて疑わなかったが

 そう話す柱聖氏は、中学生の頃に在日本朝鮮人総聯合会(以下、朝鮮総連)の幹部を務めていた祖父に連れられ、北朝鮮に帰国した。朝鮮人学校に通っていた彼は当時、北朝鮮は“地上の楽園”だと信じて疑わなかった。しかし、その希望は万景峰号が同国に到着してすぐに、崩れ去った。

「著書に詳しく書きましたが、在日帰国者は北朝鮮に着くと、まずは『帰国者招待所』に入れられました。そこで、“地上の楽園”の実情を理解し、二度と日本に戻ることはできないのだ、と悟ることになります。在日帰国者の場合、自由な日本での暮らしを知っている。そのため、はなから自由や人権が与えられていない北朝鮮の人々の生活は、衝撃的なものでした。ただ、時がたつにつれて、あの国は2つの顔を持つようになっていきました」

■家に日本製の家電がないほうがおかしいくらいだった

 帰国者招待所を出たあと、祖父が朝鮮総連幹部だった柱聖氏は平壌に住居を与えられた。平壌は特権階級層、つまり労働党幹部らをはじめとした富裕層が多く住む都市だ。そこで氏は、同国のある一面を目にした。

「80年代には、平壌をはじめ地方の大都市にある外貨商店で、日本製の家電や日用品が“公式に”販売されるようになりました。90年代に入ってからは、日本との密貿易を通して中古の家電や家具、車、自転車などが大量に流れてくるようになり、誰でも日本製品が買えるようになった。家に日本製の家電がないほうがおかしいくらいでした。日本製品で一番人気だったのは洗濯洗剤。アタックもアリエールもありましたよ。下着も日本製が一番といわれていて、グンゼやBVDもありました。2000年代に入ってからは、日本でセルシオが発売されるとほぼ同時に、党の最高幹部クラスはみんな車をセルシオに乗り換えていました。金氏一族が、どこまで知っていたかは分かりませんが、平壌なら、手に入らないものはなかったんです。北朝鮮では、テレビに映ったらOKという共通認識があります。テレビがすべての基準なんですね。それまで隠し持っていた、たとえばMP3プレイヤーなどでも、テレビで映ると“ああ、おおっぴらにしていいんだな”と、みんなが思って、翌日から街にあふれるようになるんです」

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