競馬の厳しさを表す言葉に、――競馬は1着がすべて。それ以外は2着もシンガリ負けも同じ。というのがあります。スポットライトを浴び、称賛の言葉を投げかけられるのは1着馬のみ。血統もさることながら、この勲章を手にできるかどうかが繁殖馬になれるかどうかの判断基準にもなりますから、パートナーには、なんとかして勝たせてあげたいというのが騎手の心情です。

 では、本当に2着もシンガリ負けも同じなのかと聞かれると……これが、そうでもなかったりします。一頭の馬を生産し、愛情を込めて育て、ともに夢を託したチームの人たちにとって、ひとつでも上の順位……ことに、掲示板(5着以内)に載るか載らないかは、心情的にも、賞金のうえでも、大きく違います。

 たとえば今週末に行われるオークスの場合――1着の本賞金は、1億1000万円。2着4400万円。3着2800万円。4着1700万円。5着1100万円。6着以下は賞金という意味ではありません。来週行われる、「日本最高峰のレース」日本ダービーになると、1着2億円。2着8000万円。3着5000万円。4着3000万円。5着2000万円。調教師にとっては、厩舎の運転資金に、馬主さんにとっては次の馬を購入するための原資になるわけですから、2着もシンガリ負けも同じというわけにはいきません。

 では、ジョッキーとして一番悔しい着順は? と聞かれたら……これはもう、文句なしに2着です。あと一歩。あと数センチ。勝ったと思った瞬間、足元をすくわれた日は、なかなか眠れないし、眠っても、夢に出てくるほどです。

 僕が、これまでオークスを制したのは3度。ベガ(1993年)、ダンスパートナー(95年)、エアグルーヴ(96年)と、いずれも名牝中の名牝でした。そして同じく3度、悔しい思いを味わってきました。最後の直線で一度は抜け出したものの、最後の最後でライトカラーに競り負けた89年のシャダイカグラ。写真判定の末、わずか8センチ及ばなかった99年のトゥザヴィクトリー。シーザリオの強烈な末脚に屈した05年のエアメサイア。いずれも内心、「勝てる!」と思った会心のレースでした。やれることはすべてやり、馬も、その期待に応えて走ってくれた結果の2着……悔いはありませんが、それでもやっぱり、悔しさは残ります。

■G1オークスでマウレアとコンビ

 今年、このオークスで僕がコンビを組むのは、6戦2勝。前走、桜花賞で掲示板(5着)に載ったマウレアです。その桜花賞で強烈な末脚を繰り出したアーモンドアイ。正攻法の競馬で2着を確保したラッキーライラック……今年もライバルは数多くいますが、どの馬にとっても、距離2400メートルは未知の世界。そこに、つけいるスキがありそうです。

――目指すのは掲示板? いいえ、手にしたいのは大きな勲章です。

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