フードプロセッサーの底には鋭い2枚の刃。スイッチを入れればそれが高速で振り回され、たまねぎは一瞬でみじん切りに、魚の骨やナッツでさえ粉々にする。私の指などいとも簡単に、皮も肉も切り裂かれ、露出した骨も砕かれていく。あーあ、もう無理だ。二度と元には戻らない。豚の挽肉に紛れて、もうどれが自分の指なのかがわからない。私は豚と自分の指の合挽肉をポリ袋に詰めて、あーあ、あーあ、と半笑いでゴミ箱に捨てる。

 という妄想をフードプロセッサーを手に入れてからこの1年、執拗に繰り返している。

 痛いのは嫌いだ。それなのに、この妄想にはゾクゾクしてしまう。多分私は、「もう取り返しがつかない」ことに興奮を覚える変態なのだろう。

 その変態が勧める本に、どれだけの需要があるのかはわからないが、ペス山ポピー『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』(新潮社)は、“本当に指突っ込みやがった!”級の、過激なコミックエッセイだ。

 肉体の重なりはいらない。キスや優しさもいらない。ただボコボコに殴られることで興奮する。その欲望をずっと押さえ込み、自罰的に生きてきた彼女が、ついにそれを受け入れたことを、私は祝福したい。

 本当に取り返しがつかないのは、変態道を突き進んでしまうことではなく、生きたいように生きられないまま生き終えてしまうことだ。さすがにそれは、私の興奮の対象でもない。

 ポピーよ、どうか描き続けてくれ。どうしてこんなに生きにくい股間を持って生まれたのか。少なくとも私にとっては、この本を描くためだったと思えるんだ。

『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』(1)

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