現在、“モンスター”の異名を取り、最強ボクサーの名をほしいままにする男がいる。井上尚弥(25)だ。高校生時代に7つのタイトルを獲得し、さらにプロに転向してからは、ライトフライ級とスーパーフライ級の2階級を制覇。そして5月25日には、3階級制覇を目指して、WBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦で、同級王者ジェイミー・マクドネル(英国)と拳を交えるのである。
そんな井上は、どのような選手なのか。スポーツ紙記者は鼻息荒く、次のように解説する。「判断力の速さがずば抜けていて、しかも、体幹の強さが常人離れしているから、どんなことでもできる。相手選手にすれば、リング上で驚かされる感覚と言ってよいでしょう。これは、才能はもちろんですが、謙虚さから生まれる圧倒的な練習に裏打ちされたものであり、幼少時から受けている父親のスパルタ教育が大きいといわれます。現状、どこまで伸びるのか、無限の可能性を秘めているといえますね」
マクドネルは「32歳と、この世界では“ベテラン”の年齢なのに王座にいることからも分かるように、技巧派」(前同)というが、対戦前の下馬評では、井上が有利だというのだ。しかも、ボクシング関係者は「この試合には、それほど興味はない。むしろ、その“次のステージ”こそが本当の楽しみ」と言い切るのだが、どういうことか。
■真の世界最強へ
「3階級を制覇した場合、井上はWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)に出場することで合意しているんだ。WBSSとは、真の世界最強を決める大会。そこでどこまで行けるか、日本人としてワクワクするよ」(前同)
現在、ボクシングのメジャー団体は、WBA、WBC、IBF、WBOの4つが存在し、それぞれに世界チャンピオンがいる複雑な構造となっている。WBSSとは、その垣根を越えて、それぞれのチャンピオンがトーナメント形式で頂点を決めるもの。まさに夢の大会であり、昨秋から開幕したスーパーミドル級とライトヘビー級の2階級では、総額55億円の賞金が設定されているのだ。「井上が参戦すれば、もちろん日本人としては初めて。日本人の実力を世界に示す良い機会」(同)
井上はかねてより、「強い選手と闘う。弱い選手とは闘わない」と公言してきた。最強の肩書を引っさげたモンスターの伝説――ついに、開始のゴングが鳴る。