羽生善治
羽生善治

 将棋界に燦然と輝く2つの星。巨星・羽生善治竜王。そして颯爽と現れた新星・藤井聡太六段。この2人に共通するのは、若くしてプロ棋士になり、圧倒的な強さを発揮して“天才”と呼ばれたことだ。

 なぜ将棋界にはそんな“天才”が生まれるのか? そんな棋士の秘密に迫った書籍『羽生善治竜王と藤井聡太六段 普通の子供が天才になる11の「思考ルール」』(双葉社)で、羽生善治竜王が自らの思考法について語ったロングインタビューより、その一部をご紹介しよう。

 羽生氏は東京郊外のごく普通の家庭に生まれた。子どものころは目立つタイプではなかったという。

「私は公文をしていたくらいで特別な教育を受けたわけではありません。数学が常に100点という事もないですし、問題を起こすというわけでもなく、学校の先生にとっても、目立つ生徒ではなかったと思います」

 しかし、小学校の友だちに教わった将棋に次第にのめり込んでいくと、めきめきと頭角を現し、小学6年生でプロ棋士の養成機関である奨励会に入会。そこには同世代の天才たち、佐藤康光九段、森内俊之九段、丸山忠久九段、藤井猛九段、郷田真隆九段らが鎬を削り合っていた。

「自分自身にとって同世代の棋士と切磋琢磨してきたことは大きなプラスだったと思います。森内さんと最初に会ったのは10歳の時。切磋琢磨している期間が35年とか、本当に長いですよね」

 棋士は対局では何を考えているのか? 羽生氏はそんな質問にこう答える。

「対局ではあまり長く考えすぎないことを心掛けています。長考している時というのは、考えていると言うよりも、迷っているケースが非常に多いのです。だから、迷うくらいだったら踏ん切りをつけて、手を先に進めます。そして、先入観とか恐怖心とか、そういうのを取り除いてどういうふうに見えているかという、そういう視点を大切にしています」

 人間は経験を積むと安全なほうを選んでしまいがちになる。しかし、そんな考え方を捨ててこそ、次の局面に繋がるという。

「経験を重ねると選択肢は増えますが、選ぶのも難しくなります。あとこれをやっておけば、まあまあのところに行けるだろうと平均点をとるようなやり方を知らず知らずのうちに覚えてしまうこともあります。だから経験を積めば積むほど、意図的にアクセルを踏んだほうがいいと思っています。経験を重ねるとだんだんアクセルを踏まなくなってくるということはあるので」

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