ほどよい緊張感とワクワク感。トレセン全体が、賑やかさと、華やかさで心浮き立つ1週間……今年もまた、日本ダービーがやって来ました。

――なぜ、誰もが日本ダービーを目指すのか? 中には、有馬記念でもいいし、天皇賞という人がいてもいいし、ジャパンカップだって、という人だっているかもしれません(少なくとも競馬関係者の中にいるとは思えませんが)。新馬戦からはじまって、未勝利、500万下、1000万下、1600万下、オープン特別、G3、G2とピラミッド型にクラス分けされている競馬の世界で、一番上に位置する24個のG1レース(障害を除く)は、どれも特別なレースだし、手にしたい勲章です。

 それでも、どれかひとつと聞かれたら、やっぱり、日本ダービーです。同じ年に生まれたすべてのサラブレッドの頂点を目指す、ただ一度のチャンス……天皇賞を勝っても、天皇賞ジョッキーとは呼ばれないし、有馬記念を勝っても、有馬記念ジョッキーとは呼んでもらえない。唯一、それが許される、「ダービージョッキー」を目指して、僕ら騎手は、1年を闘っています。

 日本ダービーを制したその夜は、最高においしいお酒に酔い、休み明けの火曜日、トレセンに顔を出したときに、「おめでとう!」という言葉と並んで、「ダービージョッキー」と呼んでもらえるあの瞬間は、ほかの何にも替えられない。あの気持ちを、もう一度味わいたくて騎手を続けていると言っても言い過ぎではありません。だからというか、ついついというか、日本ダービーの週に書くこの原稿にも、思わず力が入ってしまいます(苦笑)。

■人気薄で勝つのも競馬の醍醐味です

 今年、この日本ダービーで僕がコンビを組むのは、ジャンダルム。雰囲気が良くなっていた前々走の弥生賞は、力負けの3着。展開を味方につけようと思っていた前走、皐月賞はスタートでジャンプするようにゲートを出てしまい大きく出遅れ。稍重で荒れてタフな馬場への適性にも欠けていたのでしょう。何もできないまま終わってしまいました(9着)。というわけで、評価は下降線。きっと、専門紙、スポーツ紙に印はなく、本誌の日本ダービー特集でも、名前は挙がっていないかもしれません。

――1番人気の馬に乗り、文句のない強い勝ち方でダービーを勝つ。理想はそれです。しかし、これまでのV5とは違うパターン……人気薄の馬でみんなをあっと言わせて勝つのも競馬の面白さであり、醍醐味です。

――やっぱり、武豊だったのか。レース後、超満員のスタンドから、そんなため息が聞こえてくるようなレースをするために、この1週間は、日本ダービーのことだけを考えて過ごします。僕にはじめて「ダービージョッキー」の称号をプレゼントしてくれた、今は亡き友、スペシャルウィークに、いいニュースを届けられるように――。

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