オウム事件とウインドウズ95が時代の転換点だった『80’s』を作家・橘玲が語るの画像
オウム事件とウインドウズ95が時代の転換点だった『80’s』を作家・橘玲が語るの画像

 海外投資などの金融事情に詳しく、多くの預言に満ちた著書を放つ作家は、かつて宝島社で売れに売れた『別冊宝島』を手掛け、オウムのサティアン潜入で話題をさらった『宝島30』編集長を歴任した敏腕エディターだった。その若き時代は、ちょうど激動の1980年代に重なる。あの頃、日本社会と出版界では何が起きていたのか……?

作家 橘玲(たちばな あきら)

PROFILE/1959年生まれ、早稲田大学第一文学部卒業。2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー。覆面作家。他の著書に『タックスヘイブン』『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』『言ってはいけない』『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方』など。

■アイドルもサブカルも雑誌が牽引していたし、現在ネットがやっていることはかつて全部出版の領域でした

『80's』の原型は、3・11の後に「Back to the 80's」として自身のブログにアップしたエッセイだった。「単行本で読みたい」という読者の声が多く集まり、橘にしては珍しい自伝的な作品となった。59年生まれの橘は78年に大学入学。高校でハマったドストエフスキーを原文で読みたいとの思いから、早稲田でロシア文学を専攻。卒業したのが82年だった。

 今から思えば、世の中がまるで分かってなかったんですね。全然大学に行ってないから、就活をどうすればいいかも知らないし。(卒業年の)年明けに新聞の3行広告の求人で見た会社に電話して、そのまま入ったんです。当時はソ連の言葉なんか勉強してどうするのって感じで、アフガニスタンへの侵攻で日本はモスクワ五輪をボイコット。同級生を見ても、大手には片っ端から落とされてました。

 この本を書いてよく分かったのは、自分は大きな会社でサラリーマンをするなんて絶対無理だと最初から思っていたこと。新卒で入社した会社は出版業界の最底辺ですが、上司が始めた海外宝くじの情報誌が当たっていれば、そのままいたかもしれないですね。

 読者から宝くじの購入代金として送られてきた1万円札が金庫に入らなくて、札束になって机の上に積んでありましたから。これで働かずに左うちわで暮らせるかと思ったら、大蔵省に呼び出されて、法律違反だと言われて雑誌そのものがなくなっちゃったんです。

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