■「交通事故レベル」大ケガを負った吉村禎章

 プロ野球選手にケガはつきもの。長期間のブランクから復活する男たちの姿も感動、感動を呼ぶ。「平成の怪物」といわれた松坂大輔(中日)も、今季4241日ぶりに日本球界での勝利をつかんだ。その松坂と同じように、“天才”と称されるも、故障に苦しんだのが吉村禎章(元巨人、現一軍打撃総合コーチ)。非凡なバッティングセンスで2年目から頭角を現し、3年目からは主力打者にまで成長する。

 順風満帆なプロ生活を歩んでいたが、7年目の88年7月6日に悲劇は起こる。3回に通算100号ホームランを放つメモリアルデーになったが、8回の守備で、レフトフライを捕球した際、センターの栄村忠広と激突。左膝の4本の靭帯のうち、3本が完全断裂という「交通事故レベル」の大ケガを負ってしまう。

「最初は歩行すら危ぶまれていたほどでしたし、治っても後遺症が残るかもしれないといわれていましたし、周囲から“現役は難しい”と囁かれていました。それでも吉村は諦めず、2回の手術を行い、1年以上もリハビリに費やしたんです」(スポーツ紙巨人担当記者)

 必死にリハビリをやり遂げ、89年9月2日、ついにその時がやってくる。「バッター、斎藤に代わりまして吉村」

 423日ぶりの打席に立つ吉村の姿に、スタンドからは揺れるほどの大歓声。「結果はセカンドゴロでしたが、“史上最も感動するセカンドゴロ”だったと思います」(前同)

 “ケガさえなかったら2000本安打は確実だったのに”と、周囲は後ろ向きなことを言ったが、吉村だけが前を向いた。信じ続けたからこそ、復活を遂げることができたのだろう。

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