野村克也
野村克也

 年を重ねてこそ、語れることがある。60年もの間、対峙してきた永遠のライバルを、ノムさんがあらためて斬る!

 人生の伴侶を亡くして単身になった人を“バツイチ”ならぬ“没イチ”と呼ぶという。ノムさんこと野村克也氏(83)も昨年、最愛の妻・沙知代さんを亡くした“没イチ”。まず、独り身になった現在の心境を聞いてみた。

野村克也(以下、野村)だいぶ慣れてはきたけど、奥さんのいない家に一人で帰ることぐらい、寂しくて惨めなことはないよ。外では強そうに見せていても、男って本当に弱い(笑)。サッチー(故沙知代夫人)は俺の3歳上だけど、おそらくプロ野球選手には姉さん女房が合っているんじゃないかな。実際、イチローしかり松坂大輔しかり、プロ野球界で活躍する選手には姉さん女房の選手が多い。子どもの頃から野球しかやってこなかったから、どうしても社会経験豊富で頼れる年上の女性に、ひかれるんだろうね。だから、なおさら亡くしたときの喪失感が大きい。俺なんて、その典型的な例だよ。家計の管理も子育ても、人づきあいも、家のことは全部、サッチーに頼りっぱなしだったんだから。

 サッチーがいなくなってから、“あと何年”というより、“あと何日”生きられるんだろうという思いは強くなったかな。まあ、好きな野球のことだけ考えて生きてこられたから、いつ死んでも惜しくはない。でも、せっかくもらった命だし、しばらくは永らえたいという気持ちもあるんだよね。人間は明確な目標があれば、生きる意欲が湧いてくる。俺は巨人ファンだったから、巨人の名選手であり、名監督だった川上哲治さんは昔から尊敬し、目標としてきた存在。その川上さんが亡くなられたのが93歳だから、とりあえず、そこまで生きることを今の目標にしようかなと思っている。

 川上監督が率いてV9(1965年~73年)を達成した巨人の全盛期、チームの中心的存在だったのが長嶋茂雄・王貞治の「ON」だ。実は、この2人もまた、王氏が2001年、長嶋氏が07年に妻に先立たれている。

野村 彼らとそういう話をしたことはないけど、やはり寂しかったと思うよ。子どもたちが支えてくれただろうし、救われた部分もあったんじゃないかな。俺も、息子の克則一家がすぐ近くに住んでいてくれて、つくづくよかった。お嫁さんが気配りのできる人で、今も何かと声を掛けてくれるから、すごく助かっている。

 でも俺にとって、サッチーの存在は本当に大きかった。サッチー以上の女性はもう現れないだろうから、いくら寂しくても、再婚はまったく考えていないね。ただ、奥さんに先立たれて再婚する男性が多いのも事実。あれも、一人では暮らせないという男の弱さの表れなのかもしれないね。最近、王も再婚したけど、どこかで女性のぬくもりが恋しかったのかな(笑)。

 長嶋は俺と同学年、王は5歳下。2人とも同世代なんだけど、高齢期を生きることに関しては、昔のようにライバルとして意識するようなことはもうないかな。

  1. 1
  2. 2
  3. 3