■監督のＯＮは全然怖くない
野村 長嶋、王もそうだけど、才能も実力もなくプロ野球の世界に飛び込んだ俺から言わせると、Ｖ９時代の巨人は、みんな天才ばっかり。そんな彼らを束ねた川上さんの手腕は素晴らしかったね。だけど、俺は、そんなチームの監督をやりたいとは思わない。南海、ヤクルト、阪神、楽天と、人材不足の弱小チームを立て直して強くしていくほうが、性に合っているよ。
そんなノムさんは監督としても、長嶋氏、王氏と何度も対戦している。
野村 監督としてのＯＮの采配は、ひらめきや自分の感覚だけの“天才野球”。資金力に物を言わせて集めてきた選手たちを、頭をほとんど使わずプレーさせていただけだから、全然怖くはなかったね。「名選手、必ずしも名監督にあらず」という格言があるけど、彼らはまさにそのまま。なぜ、そうなるのかと言えば、自分が簡単にプレーできる天才だったから。他人も同じようにできると思ってしまうんだよ。でも、できない人はできない。だって、世の中には不器用な人間のほうが多いんだから。
野村克也（のむらかつや）１９３５年、京都府生まれ。５４年、テスト生として南海ホークスに入団。戦後初の三冠王をはじめ、数々の記録を打ち立てる。８０年に現役引退すると、４球団で監督を歴任。「ID野球」で各チームを立て直した“智将”。
◎ノムさんの最新著書『なにもできない夫が、妻を亡くしたら』
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