■不幸をもたらすサファイア「サラスヴァティの涙」

「サラスヴァティの涙」と呼ばれるサファイアがある。サラスヴァティとは、福徳や知恵を授けるというヒンズー教の女神のこと。日本の七福神では、弁財天と呼ばれている。だが、この宝石がもたらすのは福徳でも知恵でもなく不幸である。

 サファイアは19世紀のパリに突然、現われた。それ以前の来歴は一切不明だ。公園を散歩していた実業家に、ジプシーの老女が手渡したといわれている。

 以来、多くの人々がその魔力に恐怖した。原因不明の病気、階段からの転落、交通事故、盗難、火傷……。所有者は例外なく、予期せぬ不幸に襲われた。災難は宝石を手にした瞬間から始まり、手放すと同時にピタリと収まるという。

 サラスヴァティの涙は世界を巡り、日本の国立民族学博物館が所有したこともある。その時期は、バブル経済が崩壊し、ドロ沼の不況へ突入した時にピタリと重なっている。これは偶然なのか。

■フランスの運命を変えてしまった「リージェント・ダイヤモンド」

 17世紀初め、インドの採掘場で410カラットの大きなダイヤモンド原石が発見された。掘り出した奴隷は自分のふくらはぎをナイフで切り裂き、ダイヤを隠して逃走。港で知り合ったイギリス人船長に分け前を渡すと約束して、船に乗り込んだ。しかし、欲に目がくらんだ船長は奴隷を殺害。死体を海に投げ捨て、ダイヤを売ったカネをひとり占めした。船長はその後、発狂して自殺している。

 ダイヤはフランスに渡り、ルイ15世の摂政(リージェント)が購入。その後、ナポレオンの戴冠式を飾った。彼はダイヤを気に入り、自分の剣の柄に入れ込んで持ち歩いていた。やがて失脚し、セント・ヘレナで失意のうちに世を去ることになる。

 このダイヤは今、フランスの国有財産としてルーブル博物館に展示されている。

■王朝を滅ぼしてしまった宝石「オルロフ・ダイヤモンド」

 ロシアのクレムリン宮殿に193カラット、時価30億円以上といわれる「オルロフ・ダイヤモンド」が保管されている。かつてはインドのヒンズー寺院にあったものだ。伝説では、ムガール帝国の王子が「かの石に触れる者に災いあれ」と呪いをかけたという。

 18世紀に寺院から盗まれ、アムステルダムで競売にかけられた時、ロシアの富豪グレゴリー・オルロフが落札。女帝エカテリーナに贈った。オルロフはエカテリーナの愛人だった。女帝はダイヤに魅せられ、王家の宝としたが、ここから奇怪な現象が続発する。

 ダイヤを細工した職人が弟子に惨殺された。ダイヤを管理する侍従、使用人、警備兵らが次々に変死。オルロフも発狂して急死した。彼の最期の言葉は「ムガールの神の呪い」だった。数十人いたエカテリーナの愛人も、ほとんどが怪死している。

 さらに、女帝の死後も呪いは続いた。皇位についた6人のうち、3人が暗殺され、残りの3人も不幸な死をとげた。そしてロシア革命が勃発。皇族は革命軍によって処刑され、ロマノフ王朝は滅んだ。

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