辰巳琢郎
辰巳琢郎

 1991年1月から93年末まで『くいしん坊!万才』(フジテレビ系)のレポーターを務め、だいぶ鍛えられました。幼い頃から家では「ご飯粒ひとつ残しちゃいけない」という教えが叩き込まれていましたが、そのうえでさらに、食に対する考え方や立ち位置を学びましたね。

 苦手だった貝類なども食べられるようになりましたが、クセがありすぎる食べ物については、「テレビを見ている人が食べたいと思わないものはやめませんか」とスタッフに提案したこともあります。『くいしん坊!万才』では、その土地の、家庭料理や郷土料理が主役ですからね。

 たとえば地のものでは、漁師さんの船に乗せてもらい、獲れたカツオをその場ですべて食べたこともあります。捨てるところは本当に何ひとつなく、頭は、砕き、味をつけて団子状に丸めて焼いて食べたりする。あれはおいしかったですね。

 そうやって各地の生産の現場を周り、収穫などを経験する中で最も感じたのは、その土地の食べ物を旬にいただくことの尊さです。

「たくさん採れ、増えすぎた自然の恵みを分けていただく」というのが、本来の“旬を食す”ことだと思います。ですが、人口が増えた今は、ハウス栽培や養殖が半分以上になった。それは仕方がないことです。そんな時代に、逆に本来の“旬”を味わえることって、とても贅沢なことだと思いませんか?

 また、これまでいろいろと食べ歩いて、「安くておいしいお店」を見つけることの難しさは感じますね。いい店を見分けるポイントは、賑わっているかは当然ですが、長年続いているかどうかを見ます。お店を続けていくことは本当に大変なんです。そんな中で長く続いている店には、相応の理由があるのです。

 ただ、「賑わっている」という点では、東京ではあてになりません。おいしくなくてもなぜか人が集まるのが東京ですから、ご注意を(笑)。

 今回、JCBゴールドカードの会報誌で4年間連載したエッセイを、『やっぱり食いしん坊な歳時記』として一冊にまとめました。連載中は毎月本当に大変だったんです。原稿を書くこと自体も大変でしたが、書くネタの裏どりがまた大変で。毎月、5~6日は、何かいい話はないかと、アンテナを張りつつ、食べ歩きもしていました。

 テーマの食材を決め、過去の記憶をたぐり寄せ、紙に落としますが、やっぱり思い出話だけでは面白くない。そこでお店に出向き、店主とカウンター越しに話しをして、新たな発見を得たりするんです。

 また、古い本を読むことで、新鮮な情報が得られることもあります。

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