田母神俊雄×宮崎正弘
田母神俊雄×宮崎正弘

 戦後73回目の終戦記念日を迎えた日本。だが、我が国を取り巻く安全保障環境は激しく変化している。その原因は言うまでもなく、トランプ大統領と金正恩委員長との“歴史的な米朝首脳会談”である。北朝鮮は本当に核廃棄するのか。北朝鮮の“兄貴分”である中国は、どう動くのか。そして何より、日本は今、どうあるべきなのか。保守論客で知られる元航空幕僚長・田母神俊雄氏と気鋭の評論家・宮崎正弘氏の両人を招き、「今、そこにある危機」について聞いた――。

――まずは北朝鮮の非核化問題からお聞きします。

田母神 断言しておきますが、北朝鮮に核放棄の意思は絶対にありません。金正恩氏は、“先例”を見ているからです。ウクライナはソ連崩壊で一度手にした核兵器を手放したため、プーチン大統領のロシアに蹂躙され、リビアのカダフィ大佐(元国家元首)も、核開発を断念した途端に米国に潰されました。北朝鮮は過去の歴史から、しっかり学んでいますよ。

宮崎 まったく同感です。北朝鮮が核兵器を持っていなければ、あんな小国を誰が相手にすると言うんですか。ただ、そう言うと、「米朝首脳会談はトランプ政権の失敗だった」という人が出てきますが、私は成功だったと思います。これまで米帝打倒と声高に叫び、“鎖国”していた北朝鮮を国際舞台に引っ張り出したし、かの国の米国批判を完全にシャットアウトしたわけですからね。そもそも、北朝鮮が核実験やミサイル実験をいくら繰り返しても、核を小型化してミサイルに搭載する技術がなければダメ。まだ北朝鮮にはこの技術がないため、米国は北朝鮮が本当の意味で“核武装している”とは考えていないんです。

田母神 ええ、米国は北朝鮮を、まったく脅威に感じていませんよ。仮に北朝鮮が米本土にICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射しても、すべて撃墜できます。実際、米国と軍事的連携が深いイスラエルは、パレスチナゲリラが発射したロケット弾を「アイアンドーム」という防空システムで、ほぼ完璧に撃墜しています。

宮崎 逆に、北朝鮮は米国の軍事攻撃を心底恐れていますよね。昨年11月、米国が空母3隻を日本海に展開させたとき、金正恩氏は震え上がったと思いますよ。だって、空母艦載機が1日に2度、北朝鮮を空爆したら、延べ約400機。そこに在韓米軍や在日米軍、さらにはグアムの戦略爆撃機も加わったら、制空権も制海権も持たない北朝鮮は、ひとたまりもないでしょう。

田母神 そうですね。ただ、米国が北朝鮮を軍事攻撃することはないと思います。そもそも、戦争は金儲けの手段です。北朝鮮という危険な国家が存在するから、米国は韓国にTHAADミサイル、日本にイージス・アショア(いずれも弾道ミサイル防衛に用いる地対空迎撃システム)を売りつけることができたんですよ。トランプ大統領は金正恩氏に感謝しなくちゃいけないかもしれない(笑)。金正恩氏もしかり。「ミサイルを撃って火の海にするぞ」と脅しをかけられるから、小国ながら国際外交のプレーヤーになれたわけです。それから、トランプ大統領にはもう一つ、北朝鮮を中国への牽制に利用しているという側面もあると思いますよ。

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