■トランプ大統領は中国殺しに舵を切った

宮崎 逆説ですが同意見です。米国は中国に深刻な脅威を感じていると思います。

田母神 これは中国の飽くなき軍拡路線が誇張され、プロパガンダとなって報道されているためだと思います。純粋に軍事的に見ると、現在の段階では中国よりも遥かにロシアの軍事力のほうが強いと思います。人民解放軍は米国と戦っても、あっさり敗れ去るでしょう。

宮崎 確かに、装備面や士気・練度といった面で、人民解放軍は米軍の敵ではないでしょうね。ただ、中国は、そういう正面装備がぶつかり合う戦争は避け、最も横着で、最も卑怯な手段を使ってくるから油断はできません。

――孫子の兵法の「兵とは詭道なり」を地でいくわけですね。

宮崎 そう。世界最高レベルの量と質を備えたサイバー部隊を擁する中国が、ハイテク軍である米軍の指揮中枢をサイバー攻撃したら、米軍は動けなくなりますよ。あまり知られていませんが、中国が新装備や新技術に投じる研究開発投資は、今や米国と同水準なんです。特許出願件数でも米国に追いつきつつあります。加えて、夥しい中国人留学生が世界の頭脳が集まるシリコンバレーに就職し、そこで学んだ技術を中国に持ち帰っています。いわば“ハイテク泥棒”ですよ。このことを米国は問題視しているわけです。

――その中国では、上海在住の女性が習近平国家主席の肖像画入りポスターに墨汁をかけた動画がネット上で広がっています。安定していた習政権に地殻変動が起きているんでしょうか。

宮崎 日本では話題になりませんが、トランプ大統領が中国に仕掛けた貿易戦争で、中国共産党内部では今、“大地震”が起きているんです。つまり、習主席に対米貿易戦争に敗れた責任をどう取らせるかで、政敵である江沢民や胡錦濤といった長老連中が蠢いているんです。今後、“ドミノ倒し”のように習一派が続々と沈没する可能性も出てきました。新聞も、習礼賛をピタリとやめましたからね。習主席の失脚は中国の力を弱めることにつながりますので、本来は日米両国にとって歓迎すべき話です。ところが、日本の財界やメディアは“トランプ大統領の政策は保護貿易だ”という“商人の発想”で批判している。これはおかしい。

――では、トランプ大統領は評価に値する人物だと?

宮崎 日本にとっても油断できない人物でしょう。ただ、日本人という立場を離れて眺めると、ニクソン大統領以来の傑物が出てきたという印象ですね。先の大統領選を取材した際、ヒラリー陣営の集会所がガラガラだったのに対し、トランプ陣営の演説場所は立ち見の余地もなかった。これを目の当たりにしたので、大統領選の3日前、私は「トランプが9回裏2死満塁から逆転サヨナラホームラン」と書いたんです。もちろん、皆、「ええーっ?」となったんですよ(笑)。

田母神 そうだったんですか(笑)。私も米国の知人からの情報を得ていて、トランプは勝つと予測していました。私はトランプが名君なのかどうかは分かりませんが、ビジネスマンとしての的確な判断力もあり、単なる暴君でないとは思っています。

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