《私はあの人よりマシ》
そうやって人を見下すのは、愚かなことだ。
《あの人より私のほうががんばってるのに》
いい年こいて、他人に評価されないから拗ねるなんて、恥ずかしいにもほどがある。
ってアンタアンタ、オメーだよ。何年、人間やってんだって、自分自身に言っている。
同僚のBさんは、子供のお迎えがあるから遅番では働けない。LIVEに行きたいから、私も本当は早番がいいのだが、こればっかりは仕方がない。
先輩のCさんから「子供が熱を出した」と連絡があった。大人の私だって、熱が出たら心細い。仕事のことは気にしないで、今日はずっと側に居てあげてくださいね、なんて柄にもないことを言ってみる。
そうするしかないことを理解して、納得できるくらいには、大人になったつもりだ。天地神明に誓って、迷惑だなんて思ってないから、そんなに申し訳なさそうにしないでほしい。
でも、思ってるって、思われているのだろう。BさんにもCさんにも、みんなにも。めんどくせぇな。
自分と彼女たちの状況は、比較するものではない。それぞれが自分で選択してきた結果だ。私は私の意思で、こういう風に生きている。
でもそれって、いつ決めたんだろう。私は、本当にそう思っているんだろうか。
疑いが生まれたのは、知人の寿退社だった。以前、酔った彼女から、ギタリストの彼氏が所属するバンド名がぽろっとこぼれて、驚いた記憶がある。
もし、好きなバンドのボーカルにプロポーズされたら……と、思わず想像してしまったのだ。そらアンタ、仕事なんてスパーンと辞めて、結婚するわい。
私という人間は、仕事が好きで、恋愛体質じゃなくて、自立した強い女なのだと思っていたが、ただ、好きな人がふりむいてくれていないだけなのかもしれない。
それでも私は、毎日会社に行かなきゃならない。今週末のLIVEまで、生き延びなきゃいけない。涙を吸ってしわしわになったこの漫画が枕元にいてくれるから、きっと大丈夫だ。
『Aさんの場合。』
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