水道橋博士
水道橋博士

 ネットの炎上? まったく気にならない。むしろ、俺のほうで仕掛けているんで。薪をくべるように、一晩中、炎上で暖をとるような感覚。俺がつぶやくのを見て、「左翼だ、パヨク」なんて言うけど、左右を弁別せざる状況をからかうのが芸人だと思っている。ま、それほど世の中が右傾化しているのかな。「リベラルが育つのには時間がかかるけど、右翼になるのは一瞬」だとは思ってる。

 芸人になる前は、ルポライターになりたかった。55歳になった今、そこに回帰している。10代の頃から、反骨のルポライターの竹中労に憧れた。下賤のどぶ板から、エライ人を斬る。エロやグロの下衆のごった煮から、珠玉のヒューマンインタレストを拾ってくる。そんなストリートジャーナリズムの記事に共感した。

 竹中労みたいな教養が欲しいと思います。俺が読書家? いや、本を10冊読んだら、100冊読まなきゃいけない本があることを知るから……100冊読んだら1万冊読まないといけない。なんと、俺は無知であるのか……と気づかされるために本は読んでいるんです。

 北野武師匠? 客観的に芸能界史上最大の功績を持つ殿様ですし、誰も追いつけない。俺たちからすると、絶対的な座標軸。師匠が駄目だと言えば、駄目。我々の世界では、いつだって「師匠は師匠」。その関係は生涯続く、絆であり、掟ですよ。

 こういう芸の徒弟制度の世界の美意識が好きで弟子入りした。師匠は、俺にとって人生を賭けるに値する人。奉仕したい、身を賭して尽くしたい。その想いは、今も変わりません。文字通り、軍隊、一兵卒(笑)。

 最近は、そんな上下関係も溶けちゃっている。若い人が「先輩なんて関係ねぇ」とか吠える。俺は抵抗あるね。舞台の上で芸人が長い修行の果てに到達する境地は、素人にできるものじゃない。マイク一本、ひとりで2時間、客をつかんだまま、話してみろと言われて無理でしょ? 芸をする舞台の上と観客席の間には結界が張られているの。素人がやすやすと上がれるところじゃない。

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