■貴乃花や若乃花、曙らと名勝負!

――武蔵丸、武双山らを誇る武蔵川部屋と、貴乃花、若乃花、貴ノ浪らがいる二子山部屋とはライバル関係でしたね。

武 武蔵川VS二子山の時代だよね。若貴に曙がいて、今思えば、すごい時代だったと思うよ。俺がハワイから来日して、入門したのは、彼らの1年半後なんだけど、2年ちょっととかで十両に上がった3人を見ていたからね。俺は11場所(2年弱)で新十両を決めたんだ。全勝優勝(94年名古屋場所)したのが彼らより早いっていうのは、今でも誇りに思っている。貴乃花とは本割で48回も対戦した(19勝29敗)けど、お互い横綱だった01年夏場所千秋楽の相撲は強烈な思い出だな。

 14日目の相撲で右ヒザをケガした貴乃花は、千秋楽の土俵に上がれるか微妙な状態。それまでの成績は、貴乃花が13勝1敗、武蔵丸が12勝2敗。本割で貴乃花が敗れ、両者は13勝2敗の相星になり、優勝決定戦へ。貴乃花への大声援が飛ぶ異様な空気の中で迎えた決定戦。武蔵丸を上手投げで下した貴乃花は「鬼の形相」で22回目の優勝を飾った。

武 俺は「目の前にいる貴乃花を倒すだけ」と思っていたけど、ケガをしている相手を前に、どういうわけか、力が出なかった。小泉(純一郎)首相は表彰式で「痛みに耐えて、よく頑張った。感動した!」と言ってたけど、本割で勝って、優勝決定戦に持ち込んだのは俺。俺は何か悪かったのかな? 俺は頑張ってなかったのかな? って、すごく悲しくなって、その夜、「もう相撲を辞めよう」と思ったんだ。

 あれからずいぶん時間がたって、今では貴乃花親方も俺も部屋の師匠になった。夏巡業中に倒れたみたいだけど、大丈夫なのかな? 心配だよ。

 一人でいろいろ背負ってしまうマジメな人だから、周りの人がバックアップしてあげないと、かわいそう。考え方や生き方がブレない、という点では相撲と一緒。すごい人だと思っているし、一番強かった力士だね。

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