■タイに行った際、銃で撃たれたことも

 取材当日、ボクシング関係者が山根氏に対する誤解を解きたいと同席した。彼によれば、「山根会長が革張り椅子やおもてなし品を要求したことはなく、会場でも水しか口にしていなかった」という。あくまで周囲の忖度にすぎなかったことが、大げさに取り沙汰される。そこに強面な見た目も相まって、“山根独裁論”は加速していったのだろう。

「私はね、連盟の会長職という立場で、給料は一切取ってないんですよ。むしろ、AIBA関係者らが日本に来たときなんて、私の妻の店で無料で接待して、協会の金は一切使っていない。私の生活も、息子と妻に支えてもらってるんです。おかげで、莫大な金をアマボクシング界のために使ってきましたよ。金だけじゃない、命だって削ってきたんです。海外ではね、ボクシングは賭けの対象でしょう? 選手の勝ち負けが観客の懐に影響するんです。一度、法政大学の学生の試合の引率でタイに行った際に、銃で撃たれたこともありますよ。ゴングが鳴ってレフリーが試合を止めた瞬間にタイの選手がパンチを出してきてね、KOになったんです。それでタイの選手が勝ったことに納得がいかず、リングに上がって抗議したんですよ。結果、判定はひっくり返った。そのことに激昂した客が私に向かって撃ったんです。それだけじゃない。客ならまだしも、ギャンブルの対象ということは、興行関係者だって、それなりの筋の人間が多いんです。“殺すぞ”と、背中に銃口を突きつけられたことだってありますよ。私はね、そうやって日本のアマボクシングのために命を張ってきた。

 選手だって、そうした体質が残る中で戦わないといけないんですから、強いだけではチャンピオンにはなれません。五分五分だったとき、プロの世界ではドローがあるけど、アマチュアでは各国の審判員が○×をつけて勝敗が決まる。その際、国同士の力関係が影響するんです。金があれば金、なければ、顔がものを言う。だから私は命を懸けて、“男・山根”の顔で日本の影響力を高めてきた。村田(諒太)もよく頑張ったけど、頑張るだけではメダルは獲れない。彼がロンドン五輪で世界王者になれたのは、連盟の力関係が影響したことだって確かなんです」

 実際、2012年のロンドン五輪の際、日本の清水聡選手については、アゼルバイジャンの選手を6度もダウンさせながら一度は判定で負け(抗議によって後に覆る)になっている。その理由も、相手国がAIBAに多額の金を支払っていたからではないかという疑惑がある。山根氏いわく、今回の騒動で取り上げられた問題の一つ「奈良判定」のようなことは、世界の舞台では日常茶飯事なのだという。

 一方で、世界の“一筋縄ではいかない面々”と対等に渡り合う山根氏に対し、山口組との関係についても注目が集まった。山根氏本人も、テレビ出演の際に、元反社会組織関係者から脅されていると明かしていた。

「一部メディアでは、私が山口組森田組・森田昌夫組長(すでに引退。組も解散)の“舎弟”だと報じられていましたが、盃なんか交わしていませんよ。森田氏とは10代後半のヤンチャしていた頃に知り合って、“アニキ”と呼ぶ仲でしたが、その関係に上下はない。若い頃、私が森田氏の運転手で小間使いをしていた、なんて話も出ていましたが、その頃、運転免許証なんか持ってないですよ。そもそも国籍がなかったんですから、取れないでしょう!」

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