■騎手をやめたいと思ったことは!?
いつでも、どんなときでも冷静沈着。ときには皮肉を交えながら、ときには厳しい言葉で、淡々と思いを語る武豊。そんな武豊をちょっと困らせてみたくて、こんな質問をぶつけてみた。
――ケガで思うように勝てなくなったとき、騎手をやめたいと思ったことはないですか?
「ないですね」 間髪入れずに言葉を返すと、自分の胸の裡を探るようにしながら、ゆっくりと続けた。
「結果が出ないときは、自分の中でもムードが良くないなぁとか、今週も勝てそうな馬がいないなぁとか、そんな気分になったこともあったけど……僕も人間ですから(苦笑)。でも、もういやだとか、もういいかなと思ったことは、騎手になってから今日まで、一度もないですね」
金曜は、土曜のレースのことを考え、土曜の夜は日曜のレースをシミュレーションするなど、とにかく集中するという。
「レースを終えて家に帰りながら、“あそこは、こうだったなぁ”とか、“この馬は次、あのレースが合いそうだなぁ”とか思いを巡らせ、月曜は競馬雑誌、録画しておいたレースを見ます」
火曜は、調教の打ち合わせや、トレーニングで、水、木は調教……毎週がその繰り返し。でも――と目を輝かせた武豊は、「なぜか、それが飽きないんですよねぇ」と白い歯を覗かせた。
「乗れば乗るほど競馬は難しいと思うけど、乗れば乗るほど競馬は楽しいし、面白いと思う。これって、何なんでしょうね?」
逆に聞き返されたが、その答えは、すでに武豊自身の中にはあるのだろう。それを自分の中で楽しんでいる。それもまた、武豊の武豊らしいところだ。
「変わったのは、お酒が弱くなったことくらい(笑)。その他は、デビュー当時と、ほとんど変わっていません。馬に対する思いも、競馬に対する気持ちも一緒。若い頃から自由にやらせてもらってきたし。そりゃあね、ちょっと調子に乗っていた時期もあったけど(苦笑)。今思うとですけどね。怖いものなしみたいな。でも、それもこれも全部をひっくるめて、今の武豊があると思っているんですよね」