■キズナやキタサンブラックの産駒も今後デビュー
胸を張った武豊が、昨日でも、今日でもない、明日からのことについて話をしてくれた。
「来年、キズナの仔がデビューするんですよね。もしも、キズナの仔で日本ダービーを勝ったら、ディープインパクト、キズナに続く父子三代制覇になる。これって、すごくないですか?」
馬だけではない。武豊が騎乗して勝った場合、ディープインパクト、キズナと同一騎手による父子三代制覇という、とんでもない偉業を達成することになる。
「僕が初めて日本ダービーを勝ったのが20代。で、30代でも40代でも勝たせてもらって、来年の3月には50歳になる。もし50代でダービーを勝って、それがキズナの仔だったら、こんなにうれしいことはないですよね。また、ケガで乗れなくなるとか、思うように勝てなくなるとか、この先もいろんなことがあると思うけど、ジョッキーというのはそういうものだし、それが騎手という職業ですからね。慌てず、騒がず、目の前のレースに集中していれば、必ず道は拓けると信じているんです」
キズナの仔だけじゃない。3年後にはキタサンブラックの産駒もデビューしてくるし、その前に、JRA全G1制覇という偉業も、まだ成し遂げていない。
「あとは朝日杯FSだけだったのが、昨年、ホープフルSがG1に昇格したので、いつの間にか、マジックが2になってしまった(苦笑)。将来的には、札幌記念もG1になってほしいんですけど、だからこそ、その前に、一度はコンプリートしておきたいですよね」
海外に目を向けると、「競馬学校時代からの夢」と話す、世界最高峰のレース、凱旋門賞制覇も残っている。
「ここ何年か、テレビ解説をしていたんですけど、番組が終わって移動のタクシーに乗るたびに、“これじゃ、ダメなんだよなぁ”と思っちゃって。やっぱりジョッキーは、その場にいないとダメなんですよ。その場に立って刺激をもらったり、よし、頑張ろうと思ったりしないと成長していかない。こじんまりしちゃダメなんです」
競馬には、まだまだ可能性があるから――断言した武豊の周りは刺激があふれている。
「昨年、実現したラニの米三冠挑戦も、その一つ。三冠レースすべてに挑んだのはわずか2頭。そのうちの一頭が日本の馬なんですから、これはすごいことです。ラルクとジェニアルの欧州挑戦もそうだし、実現はしなかったけど、オジュウチョウサンの仏G1カドラン賞への招待も同じ。ジョッキーは何が来ても、あたふたしないように準備していなきゃいけないし、不可能なことなんてないんですから」
――ということは、目指すはJRA5000勝!?
「5000勝も、60歳まで現役も、そのためだけに騎手を続けようという気持ちはないですね。ただ――」
――ただ?
「これまでと同じように、勝ち星を積み重ねて、その結果、5000勝を達成できれば理想的だし、それで60歳まで続けていられれば、よりうれしい。ハードルは高いと思うけど、不可能じゃないと思うから」
きっぱりと、こう言い切った武豊の目には、強い意志の光があった。まずは、今週末に行われる天皇賞(秋)から。一昨年のダービー馬、マカヒキと新コンビを結成し、新たな伝説のスタートを切る。