■ロボット手術で完治も

 命あっての物種と半ば諦めたが、前立腺がんの手術を受けた知人から「手術後3か月ぐらい尿漏れがあったが、完治」と聞いて愕然としたという。いったい、なぜ、こんな違いが出たのか。実は、A氏の知人は「ロボット支援手術」(以下、ロボット手術)を受けていたのだ。

 ロボット手術とは〈ダ・ヴィンチ〉という医療機器を使った内視鏡下手術のことで、痛みや出血が少なく、術後の尿漏れなども最小限に抑えられるとされる。ロボットが手術を行うわけではなく、腹部の小さな切開部から内視鏡やメス、鉗子を入れ、外科医が外から操作する。

 ロボット手術の第一人者で、元東京医科大学ロボット手術支援センター長の大堀理博士に話を聞いた。「ロボット手術の長所は、内視鏡での画像が人間の目より何倍も高感度な3Dハイビジョンのうえ、メスや鉗子などの動きも手の動きを正確に再現することです。加えて、手を10センチ動かすとき、メスや鉗子を1センチ動かすといった操作も可能で、非常に精微な動きができるんです」

 さらに、手ぶれもなく、人間の手より可動範囲も広い。これが前立腺がんの手術では大きな力を発揮する。「前立腺には排尿をコントロールする外尿道括約筋や、神経が複雑に入り組んでいます。微細な動きができるロボット手術なら、筋肉や神経の温存が可能なんです」(前同)

 大堀博士は、これまで800件ものロボット手術をこなしているが、手術後にひどい尿漏れが治らない患者はほとんどいないという。「現在、ダ・ヴィンチは日本に260~270台あり、保険も適用されています。今後増える前立腺がんのために、もっと普及してほしいですね」(同)

 幸い、前立腺がんは一刻一秒を争うがんではない。前出のAさんもロボット手術が可能な病院をじっくり探し、習熟した外科医に任せたら、尿漏れやEDにならずにすんだかもしれない。

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