リーグ3連覇を達成しながら、今オフ、広島ファンは悶々とした日々を送っている。日本一を逃したからだけが理由ではない。「不動の3番」丸佳浩がFA権を行使し、11月15日から他球団との交渉に乗り出したからだ。

 スポーツ紙には〈巨人5年総額30億円〉〈ロッテ6年総額24億円〉といった景気のいい見出しが躍る。金銭面だけではない。巨人は原辰徳新監督が現役時代につけていた「背番号8」を用意している、と報じたメディアもあった。またロッテは「監督手形」を切るつもりだともいう。今年のFA市場の超目玉である。

 もっとも広島も手をこまねいているわけではない。球団としては破格の「4年総額17億円」を提示したと見られる。これにしても庶民からすれば気の遠くなるような金額である。

 周知のように広島は12球団の中で唯一、親会社を持たない「独立採算制」の球団である。株主構成を見ると、オーナーの松田元が20.4%、親族の松田弘が12.2%、松田勢津子が10.1%、関連会社のカルピオが18.5%、マツダが32.7%。すなわち松田家はカルピオと合わせて61.2%の株式を保有している。メディアは「市民球団」と呼ぶが、実質的には「同族経営」なのだ。

 経営状態は非の打ち所がない。2017年の売上高は過去最高の188億円。当期利益は12.9億円。54億円を超えるグッズ収入が牽引役となっている。長く広島は巨人戦を中心とする放映権収入に頼る時代が続いたが、2009年に新球場(マツダスタジアム)が完成して以降、ファシリティ・ビジネスに経営の軸足を移した。それが功を奏したのである。丸に提示した「4年総額17億円」という数字は、その成果といえるだろう。

 プロ野球選手にとって誠意は「カネ」である。広島は経営体力を踏まえた上で、先の数字を提示したのだろう。それをどう判断し、行動するかは選手の自由であり、また権利である。残るにしろ出るにしろ、丸には悔いのない選択をしてもらいたいものだ。

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