AKB48の握手会に見る「コミュ力」時代のアイドルとファンの関係性 平成アイドル水滸伝 第8回 ももいろクローバーZとAKB48~ファンと平成女性アイドル【後編】の画像
※画像はAKB48 54th Single「NO WAY MAN」 Type A【初回限定盤】より

平成アイドル水滸伝~宮沢りえから欅坂46まで~
第8回 ももいろクローバーZとAKB48~ファンと平成女性アイドル【前編】

AKB48グループは「言葉の文化」

前編の続き)グループの一体感という点ではAKB48も同じだ。AKB48グループも、それぞれが異なる個性を持っている。とはいえ、大所帯という違いもあってか、AKB48グループの場合には個人商店の集まりという側面も少なからず感じられる。一言で言えば、競争がそこにはある。その象徴が、1年に一度のイベントとしてある「AKB48 選抜総選挙」であることはいうまでもない。

 そこから生まれてくるAKB48グループならではのファン文化、それは「言葉の文化」である。

 たとえば、選抜総選挙の見どころは順位もあるが、順位決定した直後にメンバーたちが行う生のスピーチだ。そこにはインパクトのあるフレーズやサプライズの発表もあれば、メンバー同士のライバル関係を踏まえた感動的なスピーチもある。そしてそれらのスピーチの意味や魅力をファンは熱心に分析し、議論する。そのなかにはアイドルには興味のなかったような学者や評論家など識者も含まれている。AKB48とは語られるアイドルなのだ。

 確かにそうしたファン文化はAKB48の専売特許ではない。1990年代後半ブレークしたモーニング娘。にもあったことだった。モー娘。のファンも、ブログやインターネットの掲示板などで盛んに語ってきた。さらに言うならそうしたファンによるアイドルの論評は昭和時代にもあり、熱心なファンは同人批評誌をつくったりしていた。その流れが延々と受け継がれていると考えれば、それ自体新しいことではない。

 だが、AKB48の登場によって、言葉はファンにとってもっと切実なものになった。握手会があるからである。それまでメンバー不在の場で語られていたファンの言葉は、直接メンバーに語りかけられるものになった。アイドルと会話することが当たり前のことになったのである。モー娘。やモモクロもやってこなかったわけではないが、握手会を活動のコアにあるものとして確立した点では、AKB48に勝る存在はいないだろう。それはアイドルとファンの関係性にとって大きな変化だった。

 握手会でのファンは、全員がそうとは限らないかもしれないが、推しているメンバーに自分を認知してもらうことがひとつの目的になる。ファンは、相手に自分を印象づけようとさまざまな攻略法で臨む。メンバーの趣味や好きな物などプロフィールを踏まえた話題提供はごく基本的なものだろうし、それでは不十分と話題のきっかけにするための目立つ服装選びなどアピール方法を工夫するファンもいるだろう。もちろん会話時間を増やすために可能な限り多くの握手券を手にするのも作戦のひとつだ。

 その分、握手会での対応によってメンバーの人気も左右されるようになった。たとえば、NGT48の荻野由佳はファンに対する「神対応」が評判となり、選抜総選挙でも一気に順位を上げた。また元AKB48のぱるること島崎遥香は「塩対応」という評判だったが、逆にそれがキャラになり、有名になった。一般論で言えば、「塩」より「神」のほうが印象としては良いわけだが、アイドルの世界では必ずしもそうはならない。「塩」であることもまたファンのあいだで話題になり、握手会でのあれやこれやの攻略法を考える楽しみも生まれるからである。

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