■焼酎や消毒薬の原液で何度もうがいを

 それまでの長渕は、透き通った歌声でラブソングを歌っていたが、自分が作りたい楽曲との乖離に悩まされるようになり、焼酎や消毒薬の原液で何度もうがいをし、歌手の命とも言える声帯を焼き切ろうとしたというからすさまじい。現在のしゃがれた歌声は、歌唱法を変えて歌い続けたことによる後天的なものなのだ。

 商業的成功に安住せず、さらなる高みを目指す点では、矢沢も一切妥協しない。80年代に入ると、矢沢はアメリカ西海岸に活動拠点を移し、世界進出に挑んだ。念願の世界デビューを果たし、ロック界の大御所として精力的に活動していたかに見えるが、自伝『アー・ユー・ハッピー?』では、こう回想している。

〈矢沢が一番光っている時代から、だんだん仙人のようになっていった時代だ。さびしかった。このまま消えていくだろうと思うと、それは辛かった〉 アメリカに活動拠点を移し、ほとんどテレビ出演しなかったこともあり、当時の矢沢は時代の潮流に取り残されてしまっていた。

■テレビドラマで俳優として評価

 それとは逆に、長渕は1983年放映のテレビドラマ『家族ゲーム』を皮切りに、『とんぼ』、続く『しゃぼん玉』で俳優として評価を高めていた。ミュージシャンとしても、主演するドラマに主題歌を提供することで、ミリオンセラーを連発し、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

 長渕の活躍もあって、“ミュージシャン主演ドラマ”という流れができたのか、1994年には秋元康が企画したテレビドラマ『アリよさらば』に矢沢が主演し、世間を驚かせた。かつての「不良のカリスマ」というイメージを覆す不器用な教師役により、世間のイメージが一新されたのである。長渕は人情肌のアウトロー、矢沢はまっとうな社会人というふうに、それぞれ逆の方向にイメージが変わっていったことが興味深い。

■桑田佳祐とあわや喧嘩の騒動

 ミュージシャンのドラマ出演については、桑田佳祐と長渕の間でひと悶着あった。桑田が1994年に発表した『すべての歌に懺悔しな』の歌詞が、長渕か矢沢を揶揄したものだと噂になったのだ。これに対し、2人の反応は対照的だった。以前から桑田と因縁があった長渕は激昂し、一触即発の事態となったが、矢沢は桑田の謝罪に対し、「お互いクリエイターなんだから気にしてないよ。それより、こんな騒ぎになって桑田君は大丈夫か」と、桑田を気遣うコメントを寄せたのである。

■不倫報道、薬物による逮捕劇も

 90年代半ばのこの時期は、長渕にとって試練のときだった。感染症によりツアーがわずか3公演で中止となり、続いて国生さゆりとの不倫報道が報じられ、さらには桑田との対立騒動である。そこへトドメを刺したのが1995年の薬物による逮捕劇だった。

 この年は、矢沢にとっても災厄の年だった。オーストラリアでスタッフによる35億円もの横領事件が発覚し、莫大な借金を抱えることになったのだ。しばらく酒浸りの日々を送ったが、何年もかかって借金を完済したことで、矢沢はさらに男としての株を上げた。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4