■吉永小百合や竹下景子など知性派美女たち

 一方で寅さんは、生まれ育った環境や属性があまりに違い、結婚生活がとてもイメージできそうにない美女にも、後先考えずに惚れてしまうことがある。特に、考古学研究室助手(樫山文枝)、画家(岸惠子)、翻訳業の女性(香川京子)、教師(栗原小巻)、医師(三田佳子)と、インテリや芸術畑の美女に弱い。吉永小百合(73)が第9作『〜柴又慕情』(72年)で演じた、小説家を父に持つOL・高見歌子はその系統だ。歌子は初めて2度登場したマドンナでもある。「当時27歳。あの国民的美女の絶頂期であり、独身時代最後の映画。『〜柴又慕情』は、まさに国宝級の作品です」(サユリストの映画関係者)

 映画の終盤で歌子は陶芸家と結婚。そして、第13作『〜寅次郎恋やつれ』(74年)に、夫と死別したという設定で再登場した。その清楚な魅力は特筆に値するのだが、演じた吉永の実像は、意外にも肉食女子であることが定説化している。「若い頃は渡哲也(76)と交際。石坂浩二にも恋したとか。夫の岡田太郎氏には自分から迫ったようですし、映画関係者との不倫報道もあった」(スポーツ紙記者)

 これまで、そうした面を役で演じたのが、セクシーシーンに挑んだ映画『天国の駅』(84年)1本だというのが実に惜しい。

 また寅さんは、初海外ロケ作品である第41作『〜寅次郎心の旅路』(89年)では、竹下景子(65)演じる在ウィーンの観光ガイド・江上久美子にメロメロになる。「知性と色気を両立させている彼女の魅力が、存分に発揮された役でした」(前出の映画雑誌記者)

 なお、竹下はそれまでも、第32作『〜口笛を吹く寅次郎』(83年)で住職の娘・石橋朋子、第38作『〜知床慕情』(87年)で獣医院を手伝う上野りん子と、別々の役で2度マドンナを務めている。かように山田監督に寵愛された竹下だが、吉永小百合と異なり、清純イメージとは正反対の役にも積極的だ。「テレビドラマの『モモ子』シリーズ(TBS系)では夜の店で働く女を好演。一糸まとわぬ姿になったのは1歳年上の松坂慶子より早く、デビュー2作目の『祭りの準備』(75年)では釣鐘型のバストを公開。また、グラビアでも一糸まとわぬ姿になっています」(前同)

 セクシー写真が掲載された雑誌『GORO』(小学館=80年2/14号)は、売れに売れたのだった。「ただ、残念だったのは、お嫁さんにしたい女優ナンバーワンといわれた彼女が、その写真を撮った写真家の関口照生氏と結婚してしまったことです」(同)

 マドンナの中には、クロウト女性でもなく、極端な高嶺の花という感じでもないタイプもいる。第10作目『〜寅次郎夢枕』(72年)で、八千草薫(87)が演じた志村千代だ。彼女は寅さんの幼なじみで、柴又で美容室を開業した女性。一度、結婚に失敗していることもあり、気の置けない寅さんと過ごす時間に心の平安を求めた。そして、寅さんが、彼女に惚れている大学助教授(米倉斉加年)の思いを代わりに伝えると、それを本人からの求婚だと勘違いし「いいわ」と答えているのだ。リリー以外で唯一、寅さんとの結婚を了承したマドンナを演じた八千草は、亡くなった映画監督・谷口千吉とのおしどり夫婦ぶりが知られる。ただし、その結婚は不倫略奪婚である。谷口は妻だった女優の若山セツ子(故人)を捨てるような形で、19歳年下の八千草と結婚したのだった。

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