■不倫はご法度だったが

 寅さんの恋のルールは、もう一つある。「不倫は基本的にご法度」(前出の映画館館主)

 ただし、このルールは時々、破られることがある。大原麗子(故人)は2度出演しているが、いずれも人妻役だった。第22作『〜噂の寅次郎』(78年)で演じた荒川早苗は、夫と別居し、とらやの手伝いをしている女性だ。ちなみに、この作品の撮影は彼女が俳優の故・渡瀬恒彦と離婚直後。実生活では人妻ではなかったのだ。第34作『〜寅次郎真実一路』(84年)で演じた富永ふじ子は、夫が行方不明になった人妻だ。大原は80年に歌手の森進一(71)と再婚しているが、同作の公開前には離婚。またも実際は独身だった。「どちらも、大原麗子のねっとりとした色気があふれ出す人妻キャラでした。寅さんがルールを破ってしまうのも無理もない」(同)

 なお、09年に逝去した大原の葬儀では、浅丘ルリ子が弔事を読んだ。

 もう一人、第47作『〜拝啓車寅次郎様』(94年)で、かたせ梨乃(61)が演じた宮典子も人妻だ。「最もグラマラスなマドンナ。水着キャンギャル出身で、『極道の妻たち』(86年)前後から一糸まとわぬ姿が常態化していた彼女には、このマドンナ役は、女優として大きな財産になったはずです」 (同)

 後に、シリーズ全49作品すべてに出演し、新作にも登場する美女について触れておきたい。そう、倍賞千恵子(77)が演じた妹・さくらだ。「さくらファン必見なのが、第1作。このときの彼女は丸の内OLなので、シーンごとに都会的なファッションで登場し、かなり印象が違います。ボディラインがはっきりした服装もあり、なかなか見ものです」(前出の映画ライター)

 この第1作の最後に博と結婚してからは、おなじみのさくらのキャラクターになっていくのだ。さくらは、もし妹でなければ寅さんが確実に惚れてしまうタイプと言えよう。「寅さんにとって究極のマドンナは、さくらだという見方ができると思います」(秋本氏)

 それは、多くの『男はつらいよ』ファンにとっても同じかもしれない。

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