■巨人の王貞治が五輪選手に選ばれるとしたら?

 V9前夜の不振に喘ぐ巨人で、ひとり気を吐いたのが王貞治(23)。その年、本塁打王(55本)と打点王の二冠に輝いた。本誌は、その王をシーズン前半に直撃(4月23日号)し、“変化球の質問”をぶつけている。いきなり、「五輪選手に選ばれるとしたら」と質問すると王は、〈さあ何だろうなァ。走る方? いや、ボクはあまりそっちは早くないから……。そうねェ、砲丸投げかなんかだろう〉と、真面目に回答。ファンのヤジについても〈ちっとも気にならないね。ボクは名前が王だから、何でもオー、オーって聞こえるよ〉と、さらりと受け流す。

 当時、司葉子ら女優とのゴシップを飛ばされていた長嶋を引き合いに出しても、〈ボクなんかも大空クン=大空真弓(24)=とのことなどいわれてるけど、まあチョウさん(長嶋)とはわけが違うから〉と、兄貴分のミスターを立てる謙虚な回答に徹している。とはいえ、〈昨年(本塁打40本)以上は打ちたいね〉と答え、それを有言実行するあたり、「世界の王」となる片鱗を覗かせていた。

 64年はオリンピックばかりが注目されるが、政治の世界も激動の年だった。「7月の自民党総裁選で池田首相が佐藤栄作と実弾のバラ撒き合戦を演じ、永田町では、“2つの派閥から金をもらうことをニッカ、3つからだとサントリー、全部からだとオールドパー”という隠語が飛び交っていたね。命名したのは、佐藤派の金庫番だった角さん(田中角栄)だったと思うけど、うまいこと言うよね」(ベテランの政治記者)

 当時は高度経済成長の真っ只中とはいえ、物価上昇や株価下落で不況の影が忍び寄っていた時代。本誌は、オリンピック景気に期待しつつ、懸命に生きる庶民の暮らしも報じている。「夏場、オリンピックを前に東京は極端な水不足に陥るといわれていてさ。企画会議で、それじゃ、夫婦の生活にも影響が出るということになり、記者を飛ばしたんだよ」(前同)

〈N石油開発の社宅に住む男性いわく、「ここの社宅中が(土曜の夜になると)一種のムードに包まれていたものですが、給水制限以来なんとなくトゲトゲしい空気ですよ」〉(8月27日号)

 バブル時代には不倫に走る“金妻(金曜日の妻)”が話題になったが、64年当時は、夫が仕事から解放される日曜日の前夜を心待ちにする“土曜日の妻”たちの時代。しかし、蛇口をひねってもシズクがポタリポタリ……。そんな状況が“土曜日の妻”たちの苛立ちを募らせ、文字通り、夫婦に水を差してしまったのだ。しかも、社宅や公団住宅などは2DK程度が多かったため、〈子供が中学生になったらどうするのかしら〉という“土曜日の妻”たちの苦悩が身につまされる。

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