木村拓哉
木村拓哉

 こんにちは! 映画業界にはなんのしがらみもないので、好き勝手な悪口を書けるのが唯一の武器のコラムニスト・中井仲蔵です。今回はお忙しい皆さんに代わって、話題の映画『マスカレード・ホテル』を観てまいりました。

 原作は、『ガリレオ』シリーズをはじめ、様々なヒットのある東野圭吾氏の同名小説です。

 とある高級ホテルに、連続殺人事件の次なる犯行の予告がなされ、そこに敏腕刑事がホテルマンを装って潜入捜査する……というのが物語の骨子で、その刑事役は、『ラブジェネレーション』(1997年)や『プライド』(2004年)などのフジテレビ系ドラマで一世を風靡したあの木村拓哉。その教育役となるホテルマン(ホテルウーマン?)が長澤まさみで、脇を小日向文世や梶原善などの渋い役者が固めます。

 監督の鈴木雅之は、フジテレビの社員として数々の作品を手がけており、特にキムタクと組んだ『ロング・バケーション』(1996年)や『HERO』(2001年、2014年)は、大ヒットとなりました。

 ……と、ここまでお読みになって、勘のいいかたならお気づきかもしれませんが、この映画には、黄金時代のフジテレビ「月9」の足跡がベッタリつけられていました。映画が始まって最初のクレジットを見れば、フジテレビのドラマ部が製作した映画だというのは知れますが、全部を観終わった後には、「まるでかつての月9のダイジェスト版じゃねえかよ」と思わずスクリーンに突っ込んでしまいました。

 今では信じられないかもしれませんが、かつてフジテレビは、オリジナリティにあふれ、視聴率も高い番組をいくつも放送する、先鋭的なテレビ局だったんです。特に月曜夜9時からのドラマ枠は「月9(げつく)」と呼ばれ、この時間帯に放送される恋愛ドラマを見るために、OLたちは残業せずにまっすぐ帰ったと言われています。今では「テレ東のほうが面白い」というのが定説になってしまいましたが、昔は本当にすごかったんですよ。

 そんな優良コンテンツだったフジ月9の亡霊を、まるで平成最後の年に蘇らせようとしているのが、この『マスカレード・ホテル』でした。

 ネタバレになってしまうので書きませんが、この『マスカレード・ホテル』の中で、物語のヘソとなる重要人物もやっぱり月9の常連の役者が演じてます。

 ちょっとでも新味があるのはヒロインの長澤まさみだけ。もっとも彼女も、『プロポーズ大作戦』(2007年)、『コンフィデンスマンJP』(2018年)で月9に出ているので、まったくの新顔というわけではありません。

 役者陣から演出まで、まるで「月9」の再現版みたいな空気感――。昨今は、「凋落著しい」という枕詞とともに語られるようになってしまったフジテレビが、ついに過去の栄光を求め、かつて作った物の中からパクってしまった……といったらちょっと厳しすぎでしょうか。

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