■阿部慎之助は名捕手になってもおかしくなかった

――今季の巨人にあって、特に注目を集めているのが捕手陣だ。正捕手の小林誠司に、FAで移籍した炭谷銀仁朗、ベテランの阿部慎之助など、層の厚さはリーグ屈指。しかし、“伝説の名捕手”でもある野村氏の見方は、かなり辛辣だ。

野村 キャッチャーは“監督の分身”。投手だけじゃなく、守備についている選手全員に指示を出し、試合をコントロールしなくちゃいけない。だから、優勝するためには優秀なキャッチャーが絶対に必要なんだ。巨人V9時代の川上哲治監督がすごかったのは、藤尾茂さんという強肩強打のキャッチャーを外して、レギュラーに森祇晶(当時・昌彦)を抜擢したこと。森の能力を見抜き、バッティングよりも守備面を重視したわけだけど、これが功を奏して、V9に貢献する名捕手となった。

 それに引き替え、今の巨人に、それだけのキャッチャーがいるだろうか。西武からFAで獲得した炭谷が、どれだけ活躍できるか、正直分からない。もともと育てるのがヘタな球団だからね。ヨソから獲ってくればいいと思っている。

 正捕手の小林? 彼は“監督の分身”なんて、とても言えない。2年前のWBCで活躍した頃は注目していたけど、シーズン中のリードを見ていると、まるでダメ。サインの1球1球に、まったく根拠がない。これじゃ話にならないよ。小林は大学から社会人に行って、プロだろ? 先入観はいかんのだけど、大学出の名捕手って、ほとんどいない。古田(敦也/元ヤクルト)ぐらいじゃないか。特にキャッチャーは、高校からすぐにプロに入って、しっかり基礎を学んだほうがいい。19歳から22歳は、野球選手として一番影響を受けやすい時期。そこでちゃんとした指導が受けられれば、大きく成長できる。逆に間違った指導を受けると、それを直すのが大変なんだ。古田だって入ってきたばかりの頃は、肩以外、全然ダメだった。だからベンチで俺の隣に座らせて、一つ一つ教えてきたんだよ。

 でも、大学出身とはいえ、阿部慎之助は、巨人では森以来の名捕手になってもおかしくなかった。入団当初は未熟な点が多かったから、「なんだ、このキャッチャーは……」ってバカにして見ていたんだ(笑)。ところが、日本シリーズを何度も経験し、彼はガラッと変わった。キャッチャーにとって、日本シリーズは1球たりともおろそかにできない場。適当なサインを出したばかりに、日本一を逃すことさえある。捕手にとって、この舞台を経験しているかどうかは非常に大きい。阿部も日本シリーズ特有のプレッシャーの中で、学んでいったんだと思う。

 それなのに、「捕手として、これからが楽しみだ」というところで、ポジションをファーストに替えてしまった。首脳陣には、何も見えていなかったのかな。本当にもったいない。今シーズンからキャッチャーに復帰するようだけど、もうじき40歳という年齢を考えると、ちょっとしんどいわな。

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