小手伸也
小手伸也

 僕、役作りでむちゃぶりされるとうれしいんですよね(笑)。これまでやったことがない芝居や、他の人なら二の足を踏むようなことを要求されるとワクワクする。ドMなんですかね(笑)。

 現在出演中のドラマ『私のおじさん』でも、いただいた台本のト書きに〈あまりのウィスパーボイスでよく聞き取れない〉って書いてあるんですよ。僕は最近、声や台詞回しを褒めていただく機会が増えたんですが、いきなり全否定ですからね(笑)。

 僕の台詞のところだけ字幕を入れるかどうかスタッフも交えて審議になったんですけど「単語を立てつつ、限りなく不明瞭な発音で」となって、ギリギリのところを狙ってしゃべっていますが、確かに言ってることがよく分からない人っていますからね。

 そんな発声の基礎を全撤回して今回演じさせていただいているのは、バラエティ番組制作会社のチーフAD。

 僕はずっと地味に役者をやってきましたので、バラエティ番組に出演者として出たことはそれほど多くないんですが、10年ほど前『アナ★バン』という深夜番組で“太陽さん”というキャラクターの声を担当していたことがあるんです。

 女子アナと掛け合いをしながら番組の進行をする役目だったんですが、1年くらいたった頃「もっと番組が目指しているところを把握したうえでしゃべりたい」と番組会議にも参加したり、放送作家として企画書を書いたりするようになったんです。すると、出演しているだけでは分からない、バラエティの裏事情が見えてきました。

 たとえば、どのくらいの予算が組まれているのかとか、この人をキャスティングするならあの人は呼べないとか(笑)、まあ、いろんなことが見えたんですけど、一番クッキリと見えたのは、作る側の熱量です。

 バラエティって、観る側は寝っ転がって「あはは」って笑いながら気楽に観てるけど、作る側は寝不足でフラフラしながら、とてつもない熱量を消費して番組を作ってる。ただ、楽しんでもらいたい一心で。

 テレビの画面に映し出されているものはくだらないかもしれないけど、必死でくだらないものを作っている現場の熱量は、尊敬に値すると思ったし、ものすごくカッコいいと思ったんです。

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