誰もが求める「もしも」の未来――なぜ私たちは時空を超えた恋愛小説に惹かれるのか

 もしもあのとき、違う道を選んでいたら。あの出来事が起こらなかったら――未来や過去に行こうという発想はなくても、違う未来に思いを馳せる経験は誰にでもあると思う。過去や未来へ旅するタイムリープをテーマにした物語は、私たちが現実世界では絶対に触れることができない「もしかしたらあったかもしれない別の世界」を見せてくれる。そして、数あるタイムリープものの中でも恋愛を描く物語は、ふたりの間に超えられない時間という壁があるからこそ、特に胸に響くのだ。切なくも人生の愛おしさを伝えてくれる、時空を超えた恋愛小説3作の魅力を探る。

 1作目は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(七月隆文/宝島文庫)。大学生の南山高寿は、電車で出会った福寿愛美に一目惚れ。ふたりは距離を縮めて付き合うが、愛美は、恋人同士にとって嬉しいことが起きるたびになぜか涙する。未来のことがわかると匂わす愛美には、秘密があった。

 事実が明らかになると同時に、恋人としての時間には限りがあることがわかる。高寿と愛美が偶然出会い、デートして、手を繋いで……という他愛のない日々が、普通であればあるほど切ない。時空を超えたふたりは、同じ時間の流れを共にすることができない。時間の残酷さが、人と人が出会うこと、惹かれ合うことの尊さを伝える物語だ。

『タイムマシンでは、行けない明日』(畑野智美/集英社刊)は、恋愛小説のジャンルを超えて、人と人のつながりの意味を描く物語。ロケットの発射台がある島に住む高校1年生の丹羽光二は、好きだった長谷川葵を目の前で失う。島を離れ大学の修士課程に進んだ光二は、彼女を救おうとタイムマシンで過去に戻る。

 死んでしまった彼女を救えるのかという単純な話ではないことに驚いた。光二が過去に戻って行動をしたことで事実が変わり、その世界では長谷川葵ではなく、光二が死んでしまう。元の世界に戻れずに、もうひとつの世界で人生をやり直すという意外な展開が待つ。時空を超えてしまったからこそ、再会できたのにすれ違う人たちの姿が苦しい。しかし荒んでいた男の心が、タイムリープが引き合わせた人たちにほぐされていく姿が感動的。いくつかの世界が複雑に絡み描き出すのは、人を救うのは人だというシンプルな答えだった。

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